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林業界最大の問題とは何か? 新たな森林ビジネスが求められている

林業界が抱える問題は「自分の森林がどこにあるのかわからない」「隣の山主との境界線がわからない」というものだ。そのような土地には誰も手を出すことができず、そのままにしておくと森林は消えたも同然になる。そうした事態をくい止める、新たな森林ビジネスが今、求められている。

林業界が抱える問題

今、林業界がもっとも悩まされている問題は何だろうか。木の伐り方? それとも育て方? いや、木材をより高く売る方法かもしれない。

だが、もっと重要で、もっと根本的な問題が横たわっている。それは「自分の森林がどこにあるのかわからない」「隣の山主との境界線がわからない」である。

なんと日本全国には、行方不明の土地が九州の面積を超える410万ヘクタールもあるというのだ(所有者不明土地問題研究会発表)。そのうち約半分が山林である。自分の所有している山の正確な場所や面積、そして範囲を知らない人が増えているのだ。なかには所有していることさえ気づいていない人もいる。

所有者不明というのは、多くは相続手続きをしないで放置し、相続人が行方不明あるいは多数に分散してしまったものだが、さらに厄介なのは境界線未確定。だいたいの場所は把握していても、隣地との境界がどこかわからない。


境界線調査の様子

所有者および境界線が確定していなければ、その土地には誰も手を出せない。林業はおろか道を入れることも不可能となる。伐採届も出せないし、補助金の申請もできない。現在の林業は造林から伐採まで補助金なしでは動かないのが現状である。

それなら相続人や隣地の所有者を探して交渉しよう……と思うが、ここにも壁がある。まず個人情報保護法のため役所は容易に開示してくれないし、見つけても所有者が複数に分散していると、全員の同意を取り付けねばならない。これは労力と経費がかかるうえに、一人でも反対すると動かせない。全員が近隣に住んでいるとは限らず、ときとして海外にいる場合もある。




森林探偵が問題解決をめざす

愛知県新城市に「特定非営利活動法人 穂の国森林探偵事務所」がある。森林探偵と聴くと一瞬どんな事件を扱うのかと思うが、森林に関する困りごとの解決をめざすことを目的に設立された。そして請け負う仕事の大部分が、行方不明になった山林探しや境界線の確定なのだという。

「一見手の打ちようがない状況でも、コツを押さえてじっくり取り組めばある程度解ける謎もあります」(高橋啓代表)。

たとえば親から相続した森林の場所を確定したいという依頼があると、いくつかの手がかりを押さえる。まず調べるのは、登記簿と公図、森林計画図、あれば市町村の林地台帳だ。いずれも正確さはイマイチだがヒントが含まれている。本当は測量をして作られる地籍図があればすぐ解決するのだが、地籍図がつくられているのは国土の半分程度である。それでも各地図や資料を突き合わせていくと、少しずつ見えてくる。

そして森林のある集落を訪ねて山に詳しい人を探し出す。かつて山仕事をしていた人がいるとよい。その上で現地を歩いて、それぞれの記憶や現場の痕跡を探していく。林地の所有者が違うと、多くは林相も違ってくる。たとえば植林した時期が違うと、現在生えている木々の高さ・太さも違ってくるから境界線らしいと想像できる。


毎木調査の様子

「現在はGPSなどを使えば、自分が歩いたルートを地図に落とせますから確認しやすいです。そこで仮杭を打ちます」(高橋啓代表)。

これで終了ではない。仮杭は一方的な推定だから、隣地の所有者に立ち会ってもらって、ここを境界とすることに了承をもらわねばならない。お互いの言い分や記憶に基づき調整するのだ。所有森林の範囲が確定できれば森林経営計画を立てて林業関連の補助金も使えるようになる。

「お勧めは、個人ではなく集落全体で境界線確定事業を行うことです。するとお互いの情報が集まり、スムーズに決めていくことができます」(高橋啓代表)。

ほかにも細かな手続きや交渉ごとはあるが、林地関連の法律に通じている人がいると、比較的進みやすい。諦めたら森林は利用できず実質的に消えたも同然になる。そうした事態をくい止める、新たな森林ビジネスが求められているのだ。




PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

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