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改めて問い直す、DX林業先進国フィンランド【前編】なぜ日本はモデルにしてきたのか?

日本林業の「憧れの国」フィンランド。しかし、理想の林業が行われていると思い込むのは早計だ。日本がモデルとしてきた理由とは? 森林ジャーナリスト・田中淳夫が考える林業の未来、フィンランド編【前編】。

日本林業のロールモデル
「憧れの国」フィンランド

このところ日本の林業界では、フィンランド林業に注目を集めているようだ。

たとえば北海道の北の森づくり専門学院は、フィンランド北カルヤラ(カレリア)県のリベリア林業専門学校と提携して、教育プログラムの開発などの支援を受けたりオンラインでシュミレータ・トレーニングを行ったりしている。

長野県と伊那市も、3年前に北カルラヤ県と林業分野での連携・交流を強化する覚書を締結している。最近は知事やカレリア応用科学大学の視察団が長野県を訪れた。

林業を学ぶためにフィンランドの大学へ留学する人も多い。日本の研究者や林業関係者が視察に訪れるケースも絶えない。林業機械メーカーのケスラの製品は日本でも多く稼働している。フィンランドの魅力は、サンタクロースやムーミン、あるいはオーロラやサウナだけではないようだ。日本で林業に関わっている人には憧れの国の一つなのである。

日本は長く海外に林業のロールモデルを求めてきた。明治以降、ドイツに始まりオーストリアやスイスと中欧諸国が多かったが、なぜフィンランドなのだろうか

 

なぜフィンランドがモデルに?
注目の理由、そして日本との違い

フィンランドは、日本と気候や地形は違う(北海道はやや近い)ものの、森林面積と森林率、そして森林の所有形態も小規模な私有が多いなど共通点がある。

それなのに、年間木材生産量は日本の3倍近く。それでいて森林蓄積は増やしており、フィンランドの輸出額の約2割を製材や製紙など木質製品が担い、国の基幹産業として林業が成り立っている。こうした“成功例”が日本の林業関係者を引きつけるのだろう。

さらに理由として考えられるのは、ドイツなどは皆伐を原則禁止して択伐施業をしており、日本の現場には受け入れ難さがある点だ。その点フィンランドは、皆伐と一斉造林を繰り返す施業法を採用していて、日本と基本的に同じである。それだけになじみがあり、応用しやすいように感じるのかもしれない。

しかし、日本と似た施業法を採用しているのに、林業事情は雲泥の差だ。違いは森林関係の法律や税制のほか機械化の進展具合、森林管理・生産組合など組織運営まで幅広いが、最大の違いは、早くからITを取り入れてきたことだろう。最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)林業が進んでいる。



たとえばドローンなどを利用したリモートセンシングで森林計測のほか、森でハーベスタが伐る木の情報(位置、長さ、太さ、材質など)も、即座に製材工場、建築現場まで届けられるのだ。それらの森林データはオープン化されていて、誰でもアクセス可能となり、プランニングやマーケティングに活かされる。

木材取引でも製材と製紙に無駄なく仕分けされ、バイオマスエネルギー利用も進む。結果として需要と供給の最適化が行われ、利益の最大化を可能としている。

日本がスマート林業と呼んでいるレベルの一歩先、二歩先を進んでいるといわざるを得ない。日本が学ぶことは山ほどあるだろう。両国の交流が進み、また留学や視察も多く行われているのだから、日本の現場にいかに応用するべきか真剣に考えるべきである。

ただし、フィンランドでは理想の林業が行われていると思い込むのは早計である。

 

PROFILE

田中淳夫

静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)、『獣害列島』(イースト新書)など多数。奈良県在住。

著書

『虚構の森』


新泉社/2021年11月発刊

気候変動、生物多様性など、地球的な環境問題が語られる昨今、森林はそれら の大きなキーワードになっている。だが、森林の役割は異論だらけで、果たして何が正解 なのか、よくわからない。 本書は、そうした思い込みに対して、もう一度一つ 一つ検証を試みた。そして林業の役割にももの申す。植林や間伐がCO2の吸収 を増やすのか、森があると洪水や山崩れを防げるのか。不都合な真実と真の環境問題の解決を考える。




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