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森と木を身近に!子供への木育は林業振興の第一歩

日本の林業が衰退している。その原因は森や木への興味が失われているからではないだろうか。そんな思いから始まった子供たちへの「木育」。遠回りかもしれないが、長期的な視点は欠かせない――。森林ジャーナリストの田中淳夫氏が「希望の林業」を語る連載コラム。

» 第1回の記事はコチラ

林業衰退の理由は
日本人が木を嫌いになったから!?

日本の林業が衰退したのは、日本人が木を嫌いになったからではないか……そう思うことがある。

住宅に家具、さらに身の回りのグッズ類……これまで木製だった物が、どんどん非木質素材に置き換わっている。

とくに住宅の建材は、今やコンクリートや金属、合成樹脂などが当たり前。また、せっかく木の柱・木の床にしても、その上にクロスを張ったりカーペットを敷いたりして見えず・触れられずにしてしまうのである。

子供たちの玩具に木製はほとんどなく、森の中で遊ぶこともない。野外は危険、汚い、恐い、あるいは触る玩具はプラスチックの方が清潔で安全、そしてカラフルと理由はいろいろ付けるが、ようは森も木も身近でなくなったのだ。

子供たちへの
「木育」から始める林業振興

このように木にも森にも興味を持たなくなったことが、林業の衰退原因になっているのではないか。そんな思いから始まったのが「木育」だ。まず子供たちに木や森を知ってもらうことから林業振興を始めようという発想である。

最初は北海道庁が提案したそうだ。子供たちに林業を理解してもらい道産材の利用を増やすのが目的だったという。

ところがプロジェクトがスタートして、識者による「木育の理念と内容」を論議しているうちに、木育を広く「人が森や木材に寄せる気持ちを育むもの」と定義付けた。

そして内容も、木の玩具の普及や木工教室だけに留まらず、森のようちえん(園舎を持たず、森の中で行う幼児教育)や森林環境教育も含めるとした。

さらに森林ボランティア(市民による森林整備活動)や森林療法(森林内で過ごす健康法やリハビリ法)、そして田舎暮らしまで広げていく。



北海道では「木育マイスター」制度が作られ木育の指導者養成も行う。今や247人(2019年1月)にもなった。

この動きは、またたくまに全国に広がった。今では各地に木育の指導者が誕生し、木育イベントもよく開催されるようになり、木育のほか森育という言葉も使われるようになった。林野庁もこの運動を後押ししている。

喫緊の課題である林業振興に対して、まずは子供に木の魅力を知ってもらおうという発想は、一見遠回りに感じるかもしれない。

だが子供への木育は、その保護者である大人世代にもつながっている。すでに森や木から離れた生活を送っていた大人が、子供たちと一緒に木に親しむきっかけとなる。そして木のグッズを身近に置いたり、木造の家を建てようと考えるようになるのだ。

また近年は、オフィス用ビルなど非住宅建築物でも内外装に木を用いるケースが増えてきた。飲食店や雑貨などの店舗のインテリアにも木が多用されるようになっている。

そうして日常的に木を目にし触れる機会を増やすことが木材のファンを作っていく。これも広い意味での木育であり、林業振興策だろう。

樹木は何十年何百年かけて育つ。人も産業も長期的な視点が欠かせないのだ。

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『絶望の林業』


2200円(税別) 2019年8月5日発行・新泉社刊

日本の林業は、根底からおかしいのではないか。長く林業界をウォッチし続けていると、“不都合な真実”に触れることが多くなった。何から何まで補助金漬け、死傷者続出の現場、相次ぐ違法伐採、非科学的な施策……。林業を成長産業にという掛け声ばかりが響くが、それは官製フェイクニュースであり、衰退産業の縮図である。だが目を背けることなく問題点を凝視しなければ、本当の「希望の林業」への道筋も見えないだろう。


FOREST JOURNAL vol.2(2019-20年冬号)より転載

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