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【連載コラム】森林ジャーナリスト・田中淳夫氏が説く! 林業界に必要な「パラダイム転換」とは

ここ数年で世界的に広がった「化石燃料やプラスチックをなるべく使わない」という流れ。この時流に乗り、林業を成長産業として発展させていくには「パラダイム転換」が不可欠だ――。森林ジャーナリストの田中淳夫氏が「希望の林業」を語る連載コラム第1回。

世界の潮流から遅れている
日本の林業

今、世界では化石燃料やプラスチックをなるべく使わないという大きな流れが起きている。

異常気象の頻発という地球温暖化の実害が目に見えるようになってきたことに加えて、マイクロプラスチック問題など地球環境に重大な危機が起きている認識が広まってきたのだ。そして国連では、持続可能な開発目標「SDGs」が掲げられるようになった。

温室効果ガスの吸収源としての森林整備や再生可能エネルギーへの転換、そしてプラスチック代用素材の必要性と並べば、森林と木材に光が当たり、いよいよ林業の出番だ、と期待する人もいるかもしれない。

しかし一方で、違法木材問題など、林業への向かい風が強まっていることを忘れてはならない。日本に有効な違法木材規制がなく、今も輸入材の約1割が違法もしくは出所のはっきりしないグレーな木材とされている。そして国産材も、相次ぐ盗伐事件や森林計画にそぐわない事例が告発され、合法性に疑問符がつく有り様だ。

林業の現場では、全産業平均事故率の15倍以上もの死傷事故が起きている。また山主は材価の下落に伴い利益が還元されないことから、森林管理を放棄しがちだ。

残念ながら日本林業は、世界の潮流から大きく遅れている。もはや常識となったICT(情報通信技術)がほとんど使われていない。せっかく導入した林業機械のシステムが、欧米の30年前のレベルだったりする。

本気で林業を立て直し、本物の成長産業化、それも持続的な事業とするには、産業構造の大胆なパラダイム(枠組)転換が欠かせないだろう。

一人ひとりの小さな挑戦が
林業の未来をつくる

幸い、従来の枠にとらわれない展開を試みる山主や林業関係者が、全国に少しずつ登場している。

スギやヒノキの単一同樹齢林をガラリと変える森づくりを行う山主。やみくもな機械化や大規模化に背を向け、ていねいな施業を心がけ材価を上げている素材生産業者。木材を改質して新しい可能性にかける研究者や実業家。林家を支えるため木材の買取価格を市価の2倍に設定した工務店。そして、海外市場に目を向け深慮遠謀で取り組む人々……。

もちろん、それらの一つひとつは小さな挑戦であり、まだ林業界のパラダイムを大きく動かすまでには至っていない。しかし、彼らの動きをフォローしておかなければ、林業界の未来も描けない。

本コラムを通して、多少ともそうした「希望の林業」を紹介することができれば幸いである。

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『絶望の林業』


2200円(税別) 2019年8月5日発行・新泉社刊

日本の林業は、根底からおかしいのではないか。長く林業界をウォッチし続けていると、“不都合な真実”に触れることが多くなった。何から何まで補助金漬け、死傷者続出の現場、相次ぐ違法伐採、非科学的な施策……。林業を成長産業にという掛け声ばかりが響くが、それは官製フェイクニュースであり、衰退産業の縮図である。だが目を背けることなく問題点を凝視しなければ、本当の「希望の林業」への道筋も見えないだろう。

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