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要注目「生物多様性クレジット」の減税可能性とは? 悩みの種・資金調達の新手法となるか

森林管理に資金調達の悩みは尽きない。話題の森林環境譲与税とカーボン・クレジットに続く、新たな可能性が進展中? 2022年末に決まったばかりの新決議とは。森林ジャーナリスト・田中淳夫が考える林業の未来。

森林管理の資金調達
新登場の「30by30」とは?

森林所有者にとって資金調達は悩みの種だろう。いくら所有森林をベストの状態に持っていきたくても、先立つ資金がないと身動きが取れない。

そうなると公的資金を当てにしたくなるが、今注目を集めているのは、森林環境譲与税とカーボン・クレジットだ。前者は補助金として、後者は森林が吸収するCO2をクレジット化して売買することで資金を得ようという仕組みである。

そこで、もう一つの可能性を紹介しよう。実は昨年12月に開かれた第15回生物多様性条約締結国会議(COP15)で妥結した「30by30」(サーティ・バイ・サーティ)と呼ばれる決議だ。陸と海の30%を2030年までに保全区域に指定することである。



たとえば国立公園や国定公園の指定など、保護林や自然環境保全地域に指定されたところが保護地域に相当する。日本国内のそれらの保護地域の面積は現在、陸域で20.5%、海域で13.3%。まだ全然足りていないことになる。

環境省は昨年6月、保護地域の面積を増やすため、国立・国定公園の新規指定や拡張の候補地を発表した。しかし国立・国定公園を指定するには地権者との調整に時間がかかる。候補地も限られてしまう。

そこで次に着目したのが、農地や雑木林など人の手が適度に加わった里山や、企業が管理する土地も保全地区に含める発想だ。民間の土地でも生物多様性への寄与が認められる環境地域を確認して、保全地にカウントしていこうと考えている。

このようなエリアを「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)」と呼ぶ。環境省は申請・審査を経て「自然共生サイト(仮称)」として今年度中に100カ所以上認定する計画だ。生態系保全に前向きな企業や自治体による連合も発足させている。



国による「OECM」認定で減税も?
生物多様性クレジットは成立するか

そして肝心なのは、土地所有者のインセンティブとして不動産取得税や固定資産税などの軽減を考えている点だ。売買ではないが、いわば生物多様性クレジットである。

ここで林業地を目を向けると、所有している山林がすべてスギやヒノキしか植えていず、定期的に伐採する人工林というケースはむしろ少ないだろう。所有地のうち何割かは広葉樹林だったり湿地や草原だったりする場合が一般的ではなかろうか。

そうした土地で生物多様性を保全する管理をして行けば、OECMに認定される可能性がある。

同じく所有者が林業を営まずに放置している森林を自治体や第三者組織に管理を委託して保全地域にするとか、人工林であっても広葉樹を混交させるなど生物多様性に寄与させることも考えられる。すると固定資産税などの軽減が期待できるわけだ。

もちろん、制度としてまだ細かな点は公表されていないから条件や審査内容などもわからないのだが、持て余しがちの山林の負担が軽減されるかもしれない。

今後どのように進展するかにもよるが、意識しておくに越したことはない。

 

PROFILE

田中淳夫

静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『獣害列島』


860円/2020年10月10日発売/イースト新書刊

獣害は、今や農業被害だけではない。シカやカモシカ、ウサギなどの野生動物は、再造林した苗を食い尽くし、またクマとシカは収穫間近の木々の樹皮を剥いで価値を下落させるなど林業に甚大な被害を出しているのだ。そして森林生態系を破壊し、山村から人を追い出し、都会にまで押し寄せるようになった。なぜ、これほど野生動物が増えたのか、日本の自然はどう変わったのか、この緊急事態に何ができるのか。現場からの声とともに届ける。

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