注目キーワード

エコ・地域づくり

《百年の森林構想とは》林業を主軸に地域再生・自立を実現した村、西粟倉の取り組み

西粟倉村は、人口1400人ほどの小さな村。構想を元に、村の資源である豊かな森林を最大限に生かす取り組みを続け、やがて小さくも確固とした経済が生まれ「地域再生を実現した自治体」として注目を集めている。

自立した村になるため、
村づくりにおける指針を改革

2008年に西粟倉村が宣言した「百年の森林(もり)構想」は、村の大切な資源である森林を守り、育てることを目的としたもの。また、「2058年までに西粟倉村を『上質な田舎』にする」「森林を育てるための挑戦を続ける」といった意志が込められている。


西粟倉村役場「地方創生推進室」の地方創生特任参事、上山隆浩さん


2021年6月に完成した、西粟倉村役場の新庁舎。建物に使用されている木材の98%が間伐材だ。

この「百年の森林構想」が宣言されるまでには、どのような経緯があったのか。当初より本構想の運営に携わってきた、西粟倉村役場「地方創生推進室」の上山隆浩さんは、こう説明する。

「西粟倉村では、かつては木材生産が盛んに行われていました。しかし、徐々に木材生産が衰退し、やがて山に人の手が入らない状態が慢性化するように。そんな折、全国的に市町村合併が実施され、西粟倉村も、隣町である美作市と合併する方向で話が進められました。

けれども住民の半分以上が合併に反対している事実を受け、最終的に西粟倉村は、単独で存続することに。これと同時に西粟倉村では、産業や財政面で自立する必要性が生じました。

そして、地域住民と外部のコンサルタント、行政で話し合いを重ねた末、村の最大の資源である森林と林業を軸とした村づくりを行っていくことになりました。以降の村づくりにおける指針として宣言されたのが、『百年の森林構想』です」。

なお、「百年の森林構想」を宣言するにあたり、「50年先に、百年の森林に囲まれた上質な田舎を残す」というビジョンも掲げられたという。


西粟倉村では、森林が最大の資源。村の面積の約93%を森林が占めている。

 

災害に強く
エネルギーが循環する村に

「百年の森林構想」を実現するために打ち立てられた方策は、大きく2つある。災害の起きづらい健全な土地を保全すること。そして、森林資源をなるべく村内で循環させることだ。

上山さんいわく、これらの方策が練られた背景には、次のような事実と算段があったそう。

「当時、生産した木材になかなか価値がつかないために、山が放置されがちでした。けれども長らく整備されていない山は、地盤が脆弱で、集中豪雨が発生した際は災害を引き起こします。この可能性を重く捉え、山の整備を最重要項目の一つとしました。また、林業の現場では、家具や住宅に使える上質な木材が生産されるいっぽう、割れや曲がりがあり、ほとんど利益を生まない木材も出てきます。後者の木は、村外に運搬しただけでも、赤字を生み出してしまいます。しかし、村内で活用すれば、価値をつけられる。この点に着目し、森林資源をなるべく村内で循環させるという策を講じました」。


森林を更新するのも大切な作業。主伐を行った場所には、新たにスギやヒノキを植樹する。

「百年の森林構想」の宣言後、西粟倉村は、さっそく山の整備に着手。生育の悪い木や曲がりのある木は積極的に伐採し、地面に太陽光が差し込むようにした。これにより下草の成長が促され、次第に、大雨が降っても土砂が流れ出にくい山が完成する。

また、質の悪い木を間引くことで、質のいい木の生育が促進され、最終的に高価値の木が生産される。


木材集積所に積み上げられたバイオマスエネルギーに利用する間伐木。


間伐材は、専用の機械で木質チップに粉砕される。

なお2014年より、間引いた木は、エネルギーセンターを通じて村内で有効活用されるようになった。そのおおよその仕組みは、次のとおり。

まず、未利用材を細かく砕き、木質チップに加工する。この木質チップを村内のエネルギーセンターにあるボイラーで燃やし、タンク内に貯蔵された水を60℃ほどにまで温める。このお湯が配管を通じて西粟倉村役場や図書館、子ども館といった公共施設に送られ、各施設のタンクの水を温めることで、施設内の暖房や給湯が機能する。

さらには、村内にある温浴施設には、薪ボイラーを設置。木質チップを燃やして得られた熱エネルギーを利用し、温泉の加温を行っているという。


村内のエネルギーセンターにて。木質チップは、チップサイロに投入された後、ボイラーで燃やされる。


ボイラーは、イタリアのメーカー「ダレスサンドロ社」のもの。


ボイラーで温められたお湯は、蓄熱タンクへ。

西粟倉村では、「百年の森林事業」として木材を有効活用するかたわら、森林の価値の最大化を目的とするプロジェクト「森林 Re Design(リ デザイン)」にも取り組んでおり、こちらも見逃せない。

「森林 Re Design」は、端的にいうと、森林の構成を多様化しヘルスツーリズムを実施したり、養蜂や山菜といった森林農業を行ったりすることで、森林に多面的な価値を付与する取り組み。

ヘルスツーリズムや森林農業を行うことで、アクティビティを楽しむために西粟倉村に訪れる人、森林で育てられた蜂蜜を買い求める人といった関係人口が増える。また、短期間でキャッシュフローが回る仕組みがつくられるため、村内の経済も安定しやすくなる。

起業を後押しする取り組みで
村おこしが加速


西粟倉村で生まれ育った上山さん。「百年の森林構想」のプロジェクトに、構想が宣言された直後より携わってきた。


村内の各所でコンテナハウスが見受けられる。西粟倉村への移住者が暮らすことを想定して建てられたという。

「『百年の森林構想』の特長の一つが、ビジョンとプロジェクトが一体となっていること。掲げられたビジョンを具現化したようなプロジェクトが行われているので、『百年の森林構想』と西粟倉村の魅力が、外部の人々にも伝わりやすかったのだと思います。本構想の宣言後、新しいチャレンジをしたいと考える若者が、次々と西粟倉村へIターンでやってくるようになりました。また、徐々に村内で、新しい企業が立ち上がるようにもなりました」と、上山さん。

新たに立ち上がった企業の例として挙げられるのが、おもに国産材の加工流通事業を営む「西粟倉・森の学校」、家具や暮らしの道具を手がける「ようび」だ。どちらも、構想を宣言した翌年である2009年、西粟倉村の資源である森林を活用した事業を興している。


「西粟倉・森の学校」の製材所にて。比較的軽い木材を扱うセクションには、女性スタッフの姿も。

その後、全国的に、地方創生を推進するための各種制度が設けられた結果、村内では追い風が吹くことに。上山さんは、次のように説明する。

「2015年頃、新しくできた交付金制度と地域おこし協力隊制度を組み合わせ、村内で起業しやすい環境を整えることができました。具体的な例としては、村内で起業したいと考える人々をサポートする『西粟倉ローカルベンチャースクール』の創設があります。『西粟倉ローカルベンチャースクール』の参加者は、コーディネーターやメンターからサポートを受けられるほか、起業を目指す3年の間に地域おこし協力隊制度が活用でき、人件費や活動費の支援が受けられます」。

こうした取り組みが功を奏し、西粟倉村で事業を始める企業がさらに増加。現在にいたるまでに、50社以上の企業が村内で生まれている。また、その事業内容も多種多様だ。

木材を扱う会社のほか、バイオマス事業や温浴事業を営む会社、ジビエの生産・販売を行う会社、服飾のデザインから生産、販売までを行う会社などがある。こうして西粟倉村は、地域に根ざしたビジネスを展開する「ローカルベンチャー」の集積地としても知られるようになった。


「西粟倉・森の学校」の製造部に所属する川口健太さん。「西粟倉・森の学校」では、西粟倉村産材と近隣の市場で購入した木材のみ扱っているそう。


2mにカットされた板材。「できる限り多くの板材を製品にするのが、弊社の方針。傷や虫食いなどがある板材は、さらにカットして1mや50cmにしたり、薄く削り直したりします。こうすることで、規格外の板材も、製品に仕上げられる可能性が出てきます」と、川口さん。


どうしても製品にならない板材は、製材所に隣接する店舗で販売。木材が好きなエンドユーザーから好評を得ているという。また、端材でできた商品も展開されており、そちらも人気だ。

産業創出に関連したこれまでの実績を振り返り、上山さんはこう話す。

「『百年の森林構想』を宣言した後、行政が主体となり、森林の経営管理を進めてきました。しかし、それだけでは、やがて森林や西粟倉村の価値が頭打ちになってしまいます。そのため、森林や西粟倉村に新たな価値をもたせられる方々に、村に来てもらう必要があると考えました」。

木材を使った商品を展開する「西粟倉・森の学校」や「ようび」は、森林や村に新たな価値をもたらした好例だ。こうした企業がさらに村内で誕生するよう、交付金制度などを活用した仕組みづくりが始まったのが、2015年頃のこと。当時から現在にいたるまで、行政では、起業を支援する多様な取り組みを行ってきたという。

「消費者のニーズを把握する方々が村で起業し、都市部に向けて数々の商品やサービスを展開した結果、西粟倉村では雇用が生まれ、地域内の生産額も大きく上がりました。これにより西粟倉村は、さらに持続可能になり、当初、理想とした『上質な田舎』にも近づいたと思います」。


西粟倉村における次なる目標は、さらに多様な人々に村の関係人口や移住者になってもらうこと。西粟倉村では、すでに村づくりの新たな指針を設けており、2017年には「生きるを楽しむ」というキャッチコピーも発表している。これは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する「ウェルビーイング」の考え方を基盤としたもの。

今後、西粟倉村は、このキャッチコピーのもと、さらに魅力的で上質な田舎を目指していくという。

DATA

岡山県英田郡西粟倉村 役場ホームページ

百年の森林構想 『百森2.0がはじまります』


取材・文/緒方佳子
撮影/松尾夏樹

関連記事

林業機械&ソリューションLIST

アクセスランキング

  1. 林業での暑さ対策どうする! 2023年注目したいネッククーラー5選
  2. 【新製品】新次元のバッテリーチェンソー「MSA 300 C-O」8月1日 日本新発売
  3. プロ向け刈払機用ナイロンコード『テラマックス』がオレゴンから発売
  4. ベテランフォレスターが徹底比較! 現場目線で語るアイテム試着レビュー【ヘルメット編】...
  5. 【2023年版 大型チェンソー7選】メーカーに聞く「林業向け」機種、最適な1台は?...
  6. 木を食べる&木で調理する! 「味覚」から考える木材活用法が続々誕生中...
  7. フリーマガジン「フォレストジャーナル」最新夏号 6/28発行!
  8. 「稼げる林業の方程式」とは? 4人の林業家を通して見つけた重要ポイントを解説...
  9. 燃料用材としての「木質チップ」の需要が急拡大! 木質チップの需給状況の動向は?...
  10. 森林認証制度「PEFC」と「FSC」の違いって何? 特徴や取得方法を徹底解説

フリーマガジン

「FOREST JOURNAL」

vol.20|¥0
2024/6/28発行

お詫びと訂正

» Special thanks! 支援者さま一覧はこちら