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広がる「クロモジ」を活かした取り組み! 注目集める和の香りは地域づくりにつながるか

新たな森林資源として「精油」などの「香り資源」が注目されている現在。日本に自生する数千種の草木から、新たな精油原料を探す動きが加速している。なかでも関心を集めているのがクロモジだ。“和精油”としてその香りと機能性が話題になっているという。

» 前編『森から生まれるオイルが林業を救う!? 今注目を浴びている「香り資源」の可能性』はコチラ!

注目を集める落葉低木クロモジ
栽培条件や価格は?

日本には数千種の草木が自生しているが、この中から新たな精油原料を探す動きが加速している。なかでも注目されているのがクロモジだ。“和精油”としてその香りと機能性が注目されている。

クロモジは、北海道南部から九州まで広く自生するクスノキ科クロモジ属の落葉低木。この属には多くの種類があるが、日本では約10種が知られる。とくにクロモジ、オオバクロモジ、ケクロモジ、ウスゲクロモジ、ヒメクロモジは日本固有のものとされる。資源としては比較的豊富と言えるだろう。その枝葉には清涼感のある甘い香りがあり、昔から高級な楊枝や香木、あるいは枝葉を煎じてお茶などに利用されてきた。

クロモジの香りの主成分は、抗炎症、鎮静作用のあるリナロールやゲラニオール、α-ピネンなど。エキスに含まれるポリフェノールの一種がウイルスの増殖を抑えるとして、インフルエンザ予防への効果を報告した研究もある。古くから和漢薬に用いられており、生薬名は烏樟と言う。養命酒のような薬酒の主成分にもなってきた。

注目される理由は、まず栽培条件だ。日陰の風通しのよい山地でよく育つ。とくにスギ林の林床にはよく自生している。数年で高さ2~3メートルに育つから、木材生産と比べて早く収穫でき、太さに関係なく幹も枝葉もすべて使える。さらに果実からも油分が採れる。また材質は白くて緻密かつ均質で、加工しやすいから木工素材にもよい。加えて、早春に小さな黄色い花をつけ、秋は黄葉するので庭木としても人気だ。

しかもクロモジ精油はかなり高価だ。スギやヒノキなどほかの精油より数倍の価格になるという。需要は増えているのにクロモジを栽培する農林業者は少ないから、新規参入のチャンスでもあるだろう。ただし、クロモジの採油率は低い。平均的な採油率は0.1~1%ほどにすぎず、抽出にも比較的時間がかかる。まだまだ研究の余地はある。



広がるクロモジを活かした取り組み
これからの成果に期待

クロモジの精油からは、アロマテラピー用に留まらず、新たな商品開発が進んでいる。古くからはクロモジ茶があったが、最近では焼酎やクラフトジン、石鹸、入浴剤、のど飴、和菓子、アイスクリーム、ビールと広がってきた。最近はマスク用スプレーも人気だ、また染色材料としてアパレルに利用する動きも出ている。

クロモジを地域起こしに活かそうという取組も全国に広がってきた。山口県では農林水産省と厚生労働省、漢方製剤メーカーなど69社の団体・日本漢方生薬製剤協会が連携して試験栽培と商品開発を進めている。長野県では、企業と地元の農林家がクロモジ栽培の「里親契約」を結んだ。企業や研究者、そしてクロモジによる地域づくりを模索している自治体・NPOなどが集まった「クロモジ研究会」も立ち上げられている。各地で静かなクロモジ・フィーバーが起きているのだ。

もちろん本当に地域づくりにつながるのか、ビジネスとして成り立つのか、成果が出るのはこれからだ。しかし挑戦する価値はあるだろう。
 

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。

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