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森から生まれるオイルが林業を救う!? 今注目を浴びている「香り資源」の可能性

木材価格の下落が続き、林業経営を苦境に陥らせる中、新たな森林資源を見つけ商品化を模索する動きがある。そこで今回は、最近注目を浴びている「精油」などの「香り資源」を紹介しよう。林業の多角経営にもつながり、可能性が広がる市場だ。

新たな森林資源を見つける動き
今注目を浴びている「香り資源」

森林にあるもので、木材以外の商品になる資源は何か。実はアイデア次第で、まったく新しいものが見つかっている。考えてみれば林業の対象である森林には、動植物や菌類、それに無機物(水、土、石、空気など)と、用材以外にも資源は多彩にあるのだ。

今回は、最近注目を浴びている「精油」などの「香り資源」を紹介しよう。

植物にはさまざまな香りを持つものが多い。精油は、簡単に言えば植物から採れる匂い成分を含有している揮発性物質だ。エッセンシャルオイルとも言う。ほかにフローラルウォーターと呼ぶ芳香蒸留水、さらに酒に漬けて溶かし込んで飲む薬酒などもある。なおアロマオイルと呼ぶと、合成香料やアルコールなど添加物を混ぜたものも含まれる。

精油の種類は数百種類に及ぶが、いずれも香りは植物の花や葉、木部、果皮、樹皮、根、種子などから抽出する。匂いは人をリラックスさせたり、爽快な気分にしたりするなど精神や肉体にさまざまな効能を発揮するのである。

一般に精油原料には、ペパーミントやラベンダー、カモミールといった草本系のハーブやオレンジなど柑橘系の果実など外国産の植物のイメージがある。しかし最近は、和精油、和ハーブといった言い方で国産の植物を原料とするものも注目されるようになってきた。

たとえばヒノキやスギも、立派な香料だ。それも葉の部分と木部で香りが違う。またクスノキの精油は、戦前は樟脳として防虫剤や医薬品に重宝され、日本製が世界を席巻していた。現在は合成品にとって代わられたが、いまだに天然樟脳は根強い人気がある。

ほかにもトドマツ、モミ、コウヤマキ……と林業樹種と重なる原料は数多い。また、これまで気づかなかった雑木からも香りに注目されるものが見つかっている。潜在的な香り資源は多いのだ。

使い道としては、アロマテラピー(芳香を吸い込んで心を癒し、病気治療に役立てる療法)が主だったが、近年は市場を広げてきた。化粧品や芳香剤、洗剤、入浴剤、虫よけスプレー、それに空気清浄機など家電製品まで拡大している。ストレス社会と言われる中、香りによる癒しが求められるようになったのだ。



マスクにも精油の広がり
抗菌・抗ウイルス作用にも期待

今、注目を集めるのはマスク用だ。コロナ禍のためマスク需要が急拡大したが、そこでもマスクに精油によって香り成分をつけた商品が増えた。これは香りを楽しむだけでなく抗菌・抗ウイルス作用に期待しているのだろう。

精油市場は急伸しており、2018年は約3564億円(そのうち製品市場は約3012億円)まで膨らんだと推計されている。(日本アロマ環境協会調べ)当然、その原料も多く求められるようになった。

原料から精油を取り出すには、蒸留法や圧搾法、溶剤抽出法……などいくつか方法はあるが、設備投資も必要だ。ただ少量なら小規模な機材でも可能なため、自家製造し直販に挑戦する林業家もいる。

木材生産とはまったく違った新しい顧客を開拓しなければならないが、林業の多角経営にもつながっている。もしかしたら大きく化ける可能性があるのだ。

なかでも注目されている原料は、クロモジだろう。その広がりを後編で紹介したい。

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。

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