一般人向けのチェンソー体験を開催! 「休日山しごとラボ」の森と人をつなぐ試み
2021/05/14
様々な課題を抱える森林を、もっと暮らしに近い存在へ。森林を切り口にしたソーシャルビジネスを標榜する「森のお仕事株式会社」。林業の裾野を広げるために始めた、一般向けチェンソー講習が好評だ。
週末木こりを増やし、
森の健全化を目指す
作業服に身を包み、レクチャーを受けたら、いよいよ実践。安全対策を十分に行いながら、チェンソーで丸太を輪切りにしていく。チェンソーを初めて触ったという受講者の女性は、「バターを切っているみたいに軽い切れ味で気持ちがいい」と目を輝かせた。
東京都日の出町にある林業会社「森のお仕事株式会社」が主催する「休日山しごとラボ」。「山しごとを趣味にしよう」をキャッチコピーに、一般人向けのチェンソー体験講座を1回6000円〜の予約制で開催している。講座は4段階に分かれ、立っている木を切り倒すのが最終段階だ。目的は、「林業の裾野を広げていくこと」と、代表の岩田雄介さんは話す。
代表の岩田雄介さん。自身ももともとはサラリーマン時代に森林ボランティアに関わったことがきっかけで林業の道へ。
「建材以外にも食糧生産、燃料など、昔の日本人にとって山はもっと身近な存在でした。今は人々の日常と森が遠い関係になってしまった結果、林業も様々な課題を抱えています。安全性をしっかり確保した上で、その裾野を広げ、森に関わる人を増やすことができれば、地域活性や森の健全化に繋がると考えているんです」。
「休日山しごとラボ」は週末開催。参加動機は、庭の管理やDIY目的でチェンソーの扱い方を身につけたいから、というケースが多いが、中には林業への興味から参加する人も。サポートメンバーの後藤めぐみさんは、林業に興味を持ち、“週末木こり”になったモデルケースだ。多摩川を拠点にカヌーインストラクターを本業とする彼女は、自身の体験を通し、アクティビティーとしての林業体験のポテンシャルを実感。ボランティアではなく、技術が身につく有料アクティビティーとして林業体験をパッケージングするよう岩田さんに提案し、「休日山しごとラボ」が誕生した。
サポートメンバーとして活躍するカヌーインストラクターの後藤めぐみさん。
後藤さんは「林業に関わろうとすると、0か100しかない。一般人の入口は、森林ボランティアだけ。安全に配慮しつつ“楽しむ”という視点も取り入れながら、山仕事に関われるやり方があるといいなと思ったんです」と語る。
伐木した木材でプロダクトを作るコースや山仕事を手伝うプロジェクトなど、受講者がその後も継続して山に関われるような受け皿も準備。また、耕作放棄地の茶畑の再生やお茶摘み体験、竹林の整備・活用など、林業にとらわれず、広い意味で“森”と“人”とつなぐプロジェクトも、地域を巻き込みながら推進している。「森を取り巻く地域資源の可能性は、まだまだ埋もれている。受け皿を作ることで、関係人口を増やしながら、地域で小さな雇用も生んでいけたら」と、岩田さんは意気込む。
講座は和気あいあいとした雰囲気。コロナ禍で実験的にオンライン講習もスタート。
「休日山しごとラボ」のフィールドは、青梅市街地からほど近くの私有林。明るく平坦な立地でワークショップには最適な環境だ。利用にあたっては、森林整備が追いつかず、私有林を持てあましていたという山主に直接交渉。森の管理・整備をしながら、ワークショップの収益の一部を山主に還元するという条件で、自由に使わせてもらっているという。山主、林業従事者、一般人、そして森にとって、持続可能でWin-Winなモデルケースを実現することで、他地域にも私有林活用の動きが広がっていけば、と岩田さんは考えている。
「ビジネスモデルとしても成立させることで、持続可能な形を作っていきたい。ゆくゆくは、思い思いに森を活用したり、遊んだりできる、秘密基地のような会員制のフィールドも作りたいと考えています」。
森のお仕事のヒストリー
- ●2016年
森のお仕事株式会社創業 - ●2017年
地域資源を活かしたお茶事業スタート - ●2019年
チェンソー講習をスタート - ●2020年
山主と契約し、民間林を講習専用林として活用
森のお仕事の
地域を巻き込む活動のヒント
他業種のサポートメンバーが集結
4名の従業員の他に、非常勤で関わる8名のサポートメンバーが参加。カヌーインストラクターの後藤さんは、本業の「教える」能力を活かし、アクティビティーとしての林業体験が成立するようなプログラムを構築。安全で、達成感がありつつ、楽しめる内容になっている。他にも地域資源コンサルタントを生業にするメンバーが、新規事業の立ち上げに関わるなど、本業を活かしたサポート体制が整う。
地域資源を活かした事業にも注力
東京都檜原村の山間地域には、斜面でお茶を育てて家庭で楽しむ文化があったが、高齢化によってお茶畑を持てあます人が増加。そこで「森のお仕事株式会社」では5月のお茶摘みシーズンに、茶畑でのお茶摘み&紅茶づくり体験を実施している。また、山作業の際に出てくる野生のクロモジの端材を活用し、クロモジ茶を製品化して販売。その名の通り、地域課題の解決に繋がる「森のお仕事」に積極的に取り組むことで、人脈も広がっている。
BtoCのアイデアをすぐに形に
「森のお仕事株式会社」では現在、収益の多くを森林保全事業が占めているが、ワークショップや体験などを主軸にしたBtoC事業の拡大を目指している。可能性を模索するなかで、初期投資やリスクの少ないアイデアは躊躇なく形にするのがモットー。写真は、軽トラの背中にモバイルハウスを乗せた「SUBACO」。六次産業化の新たな試みとして、誰でも簡単に組み立てられるキットを現在、開発中だ。YouTubeやSNSでもその模様を発信し、自社の広報活動にも繋がっている。
一般人が関わるにはハードルの高い林業界。チェンソー体験などの「休日山しごと」を通じて、林業界の魅力を体感する人が増えている。中には「週末木こり」になった人も。
DATA
森のお仕事株式会社
東京都西多摩郡日の出町大久野4807
写真・文:曽田夕紀子(株式会社ミゲル)
FOREST JOURNAL vol.7(2021年春号)より転載