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【匹見の森のブランディング】美しい音色響かせるカスタネットに込められた思いとは?

匹見は97%を山林が占め、太古の昔から豊かな森を活かし栄えてきた。現在多く抱える課題のため動き出した「SDGsプロジェクト」。トレーサビリティQRコード付き栗の木カスタネット完成の一大事業をリポート!

メイン画像:©︎響hibi-ki/Isao Nishiyama

「ポケットに入る森」が体現する
匹見の森のブランドイメージ

ポケットに森をーー。

その思いが実現したのは2021年10月。島根県の西南部にある益田市匹見町の小・中学校へ通う全校児童生徒19人の子供たちへ「ポケットに入る森」が、SDGsプロジェクト『ポケットの中の森と音楽〜Forest & Music in Pocket〜』から贈られた。

森というのは、遥か2万3千年前から豊かな広葉樹林文化が形成されてきた匹見の森。日本有数の広葉樹の里として知られる。

ポケットに入る森はカスタネット。その名も『ひきみーにゃ』。木の温もりをそのまま体現したトレーサビリティの付いた美しい木目のカスタネットである。熟練の職人の手で一つ一つ丁寧に仕上げられ、音色は澄んだ森の空気を震わせる木霊(こだま)の息づかいのようだ。

使用された木は、正真正銘、匹見の森で伐採された栗の木である。

カスタネットには、伐採場所、乾燥法、木取り、製材、加工に至る全工程の情報が表示されるトレーサビリティのQRコードが付けられている。これにより品質管理とリスク管理が徹底され、消費者からの信頼度が増し、この小さなカスタネットが広大な匹見の森そのものを象徴する確かなブランドイメージとして印象づけられた。

 

「豊かな”広葉樹の里”利用促進」
その思いがカスタネット誕生へ

カスタネットの誕生は、(一社)創造再生研究所、木材楽器メーカーで民間木材認証機関のSAKUWOOD代表の小見山將昭(こみやま まさあき)氏の「楽器を通じて国内の豊かな広葉樹の利用促進に貢献したい」という思いが始まりだった。

小見山氏は以前、山野楽器で楽器木材を学び、ヤマハでの勤務を経て、数々の人気アーティストを育てた音楽プロデューサーである。

2019年、小見山氏の思いが益田市の山本浩章(ひろあき)市長へ伝わり、行政が動き、匹見の町民や林業に携わるすべての人々が一丸となって、約2年がかりでトレーサビリティQRコードが付いた高品質のカスタネットが完成した。



広葉樹の価値を高める
アイコンにしたい

匹見といえば97%が山林150種とも200種ともいわれる広葉樹林が広がり、この豊かな森林を活かした広葉樹文化と産業が古くから栄えてきた場所である。今でも考古学的価値の高い貴重な縄文時代の遺跡群が約40か所あり、近世は木地師(きじし)の漂泊地域となって、明治以降、広葉樹は木炭に加工されて出荷された。

しかし、昭和30年代のエネルギー革命により木炭の需要は激減。同38年の豪雪と相まって人口減少率が40〜50%の過疎地域が続出した。匹見は、日本の最も典型的な過疎自治体として、中央省庁等の視察・調査が相次ぎ、教科書では匹見は過疎の代名詞とされた。 

益田市の山本市長は次のように語る。

「益田市は、北は日本海を望み、南は中国山地が連なる自然豊かなまちです。私自身、4人の子供をここで育てています。益田市を流れる清流・高津川は、これまで何度も国土交通省調査で“水質日本一”に選ばれた美しい川。この綺麗な水を育んでいるのが匹見の森です。

匹見の広葉樹はいま、多くをチップ化しています。しかし今後は匹見の広葉樹の価値を高めて、より一層、活用していきたいと考えています。このカスタネットは、その思いが形になったアイコンともいえるものです」。

 

地元に愛される
匹見のニューアイコン

この小さなカスタネット誕生が象徴するように、今、「広葉樹の里」としての匹見は、確実に新しい局面を迎えつつある。

そのもう一つのアイコンが、京都から匹見に移り住み、林業女子として地元の人々に愛される32歳の元モデル・画家・デザイナーの山本千栄(ちえ)さんだ。9ヶ月のお子さんを育てながら、支障木伐採や草刈、間伐、チェンソー講習会など多角的に活動する。

©︎響hibi-ki/Isao Nishiyama

山本千栄さんはこう話す。「伏流水が飲める山がほしい! それが始まりでした。水は生命の源。母の病をきっかけにその重要さにあらためて気づかされたのです」。

千栄さんは、地域おこし協力隊として匹見に赴任後、約3ヶ月後にはNPOを立ち上げ、森の担い手育成・森林整備・林業の六次産業化を柱に活動している。

2018年に移住してから、山主と共同で山の管理と保全を行ってきたが、もうすぐ所有と経営が一致する自伐型林業家として自立する目処も立ってきたという。

「私は、匹見の魅力を発信する場にもなっている『匹見峡レストパーク』のキャンプ場運営にも携わっています。レストパーク付近には片道およそ4キロの自然観察遊歩道があり、広葉樹林の合間を縫って清らかな渓流が流れています。夜には漆黒の闇に包まれ、満点の星が煌めきます。

その美しさに魅了され、広島や山口など遠く県外からもたくさんの人が癒しを求めて訪れます。カスタネットは今後、この豊かな匹見の森を持ち帰れる素敵なお土産として販売していきたいです」。



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