木材を十二分に活かす調理法とは? 食×木材で息の長い“需要”を生み出せるか
2021/03/26
食に関わる木材活用法として、アメリカでブームになっているのが「ウッドプランク・グリル」という調理法。樹種を選ばず、基本的には針葉樹の板が用いられるので調達も簡単だ。食欲に木の魅力を結びつけたら、新たな需要を生み出せかもしれない。
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木の板の上に食材を乗せて
炭火などでじっくり焼く!
木材を十二分に活かす調理法
「ウッドプランク・グリル」という調理法をご存じだろうか。バーベキューの一種なのだが、最近アメリカでブームになってきたものだ。日本でも、アウトドア愛好家の間で少しずつ知られて試す人が出てきた。これは木材を十二分に活かす調理法なのだ。
調理法は極めて簡単。木の板(ウッドプランク)の上に食材を乗せて、それを炭火などでじっくり焼くだけだ。木板はなんでもいいが、だいたい厚さは1センチくらい。薄すぎると焼いた際の強度が足りなくなる。大きさは乗せる食材やバーベキューコンロの幅に合わせるが、通常使われるのは長さ30センチ程度だ。
樹種も選ばないが、基本的には針葉樹の板だという。アメリカでもマツ類が多いようだ。ただサクラのような材はよい香りが付くので好まれる。日本ならスギやヒノキは調達も簡単だし、香りもよいから使い勝手がよいだろう。
この板を、水もしくはワイン、日本酒などの酒に浸しておく。果汁ジュースでもよい。できれば一晩浸して染み込ませる。そしてバーベキューが始まると、板の上に生の食材(肉や魚、そして野菜でも。ハーブ、スパイスなど味付けはお好みで)を乗せてそのまま火にかける。そして蓋をする。大きな蓋がなければ、アルミホイルを被せて覆うだけでもよい。あるいはアルミ皿を反対にして被せる方法もあるだろう。板は炎にあぶられると煙を上げるが、焦げても意外と燃え上がらない。
すると食材は蒸し焼きのようになるうえに、板の焦げた煙に包まれるので燻製効果も出る。食材は途中で引っくり返さないでもよい。それでもふっくら焼けるのだという。木の香りだけでなく含ませた酒類の香りも食材に移る。直火のグリルより焦げにくく、つきっきりにならなくてもよいのも利点だ。それに十分に火が通ったら、板に乗せたままテーブルに出せるから、皿の代わりにもなる。
食×木材で
新しい需要を生み出す
すでにウッドプランク(アメリカではグリリングプランク)は、ネット通販などで売られるようになってきた。価格は販売者によって千差万別だが、たとえば10枚セットで2,000円程度の設定が多い。木材の量からすれば利益率は非常に高い。
しかも使う場としてキャンプやバーベキューパーティなどを想定すれば、非日常的な空間だけに、あまり価格を気にしないだろう。また製造も極めて簡単だ。精密な寸法は求められないし、乾燥も必要ない。むしろ見た目をよくすることが大切だ。
ただ何分、日本では新しい調理法だから、黙って並べておけば売れるというものではない。販売方法も工夫する必要があるだろう。まず調理方法を伝え、その魅力を十分に発信する提案型の販売が求められる。キャンプ場などと提携してもよいだろう。
こうした普及の努力をすれば、今後伸びていく用途ではないだろうか。しかも基本は一回ごとの使い切りだ。毎回新たな板を購入することになる。
食欲は、人間の根源的な本能だ。ここに木の魅力を結びつけたら息の長い需要を生み出せるはずだ。新分野を定着させるには時間も手間もかかるが、五感に訴える林業として考えてみてほしい。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。