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林業事業体が困っている!?「ベテランはなぜ若手に技術を教えないのか」問題

林業業界では、通常、民間企業・行政組織で行われているベテランを組織の中で活用していく仕組みがないのはなぜなのだろうか。FOREST MEDIA WORKS Inc. CEO 楢崎達也氏は、「ベテランが若手を育成する組織構造を整える必要性がある」と語る。

「ベテラン問題」とは何か

調査や研修等でよく聞かれることがあります。「ベテランが安全基準を満たした服装をせず若手の見本にならない」「ベテランから危険な作業をしている」「ベテランが技術を教えてくれない」「ベテランの説明が理解できない(≒長嶋茂雄状態)」です。
 
僕も若い時にはベテランを馬鹿にする血気盛んな若手でしたが(そう見えるでしょ)、ただ、僕もベテランの域になると若手のようにガンガン働くことができません。部下からは「楢崎さんはいつから保守的になったんですか!」と言われる始末(苦笑)。
 
数年前に話をさせていただく機会をいただいた岩手県の発表会で会場から「ベテランの存在が林業の発展を阻害しているのではないのか」という強烈な質問を受けました。僕の中のもやもやに喝を入れた大事な質問で「ベテラン問題」を考えるきっかけになりました。よくよく考えてみると、確かに「ベテランは若手に技術を教えていない」と思います。



通常、民間企業・行政組織ではベテランになった方々は、それまでの経験を活用する形でタスクが与えられ「上司」「管理職」となり、何らかの部下の「指導役」「管理役」という役割・活躍の場が与えられます。そして、良い上司、良い管理職になるための研修も受けさせられます(効果のほどは?)。
 
林業業界(行政を除く)には、ベテランを組織の中で活用していく仕組みがほとんどありません。チェンソー1本で頑張ってきた技術者は、歳を取っても現場で若手と一緒に同じ作業内容で働いています。歳を取っても若者とチームを組んで働く喜びももちろんあると思いますが、歳を取ると若手ほど作業ができなくなります。そうすると、ベテランは作業効率面で評価されてしまった場合、組織内で居場所がなくなります。
 
居場所がなくなってきた段階で「これはやばい」と思っても、残念ながら、すでに手遅れです。若い時から林業現場の最前線で一生懸命頑張ってきた方々がそのような扱いを受けることは悲しいです。さらに重要なこととして、この状態がベテランを精神的に焦らせ、現場での事故につながっているとも思っています。
 
翻って「ベテランが若手に技術を教えない」のは、歳を取った自分の居場所を作るためです。若手の能力アップが遅い方(下手な方)が、ベテランは存在価値を維持することができますからね。また、ベテランは「技術を教える説明スキルを持たない」という大きな課題もあります。



「人材を育成する」という
視点の必要性

今の林業業界を見てみましょう。林業大学校等で林業を志す若者の多くが「俺はチェンソー1本で生きていく! 現場一筋が俺の生きる道!」と言う人が、実際に今でも多いのです。林業に従事する人の考え方は今も昔も変わっていない現実がそこにあり、「それではダメなんだよ」と教えていない。今の若者が今後、どんな40歳、50歳、60歳、70歳になっていくのかイメージが目に浮かんできます。
 
林業業界で働こうとしている人、事業体の経営をしている人は、他の業界では常識である、「人材を育成する」という視点を持って経営するべきだと思います。林業業界の人材育成は、行政が実施することになっていますが、その教育が終われば、事業体の中で人材育成をすることが必要です。
 
どんな若手でも下が入ってくれば先輩になり、歳を取れば若手を使う立場にならなければなりません。どうすれば良い先輩になれるのか、どうすれば良い上司になれるのかを誰かが教えていかなければなりません。この視点での取り組み(=職長研修)が林業業界で広がることが必要だと思っています(今年度は試しに岐阜県で実施してみます)。
 

PROFILE

FOREST MEDIA WORKS Inc. CEO

楢崎達也


カナダで森林工学を学んだ後、京都大学大学院を経て、大手銀行系シンクタンクにて森林・林業部門、大手林業会社S社の山林部門勤務。現在、同社にて、森林組合の経営改善支援、人材育成カリキュラム作成・運営、森林経営管理制度実施支援、林業×メディア融合、ITソリューションの現場サイドからの設計をしている。次世代森林産業展2019プロデューサー。


FOREST JOURNAL vol.5(2020年秋号)より転載

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