低コスト化を実現するキーアイテム! 運搬ドローンの省力化は笑顔も届ける!?
2020/11/11
林業において現場まで資材を運ぶ労力と時間コストは大きな課題。そんな悩みを解決するべく開発されたのが運搬ドローン「いたきそ」だ。低コスト化の鍵を握るその実力について伺った。
労災事故から生まれた
作業員の安全と生活を守る
運搬ドローン
「現在、経営計画の認定をもらっているところが2300haあります。今年はその中の97haの植栽と下草刈りをしています」と教えてくれたのは、株式会社中川の創業者である中川雅也さん。
現在21人の従業員を抱える同社は、育林に特化し創業5期目を迎える林業ベンチャー。秋から春にかけてはコンテナ苗を利用した植林、秋から冬にかけては地拵えと獣害防止のネット張りを行う。夏の間は下草刈りだ。
皆伐の進んでいる和歌山県では同社が請け負う皆伐跡地の面積は増える一方となっている。この作業量の増大に応えるべく、ドローン開発に力を入れる上道キカイ株式会社と共に開発したのが、林業資材運搬用ドローン「いたきそ」だ。
実は「いたきそ」開発のきっかけとなった事故があった。広大な皆伐跡地には、最初に大量の獣害防止用の資材を運ぶ必要があるが、それは全て人力で行われていた。ある日いつものように資材を運んでいた作業員の腰がついに悲鳴を上げてしまう。
この労災事故をきっかけに従業員の中から資材をドローンで運ぶことができないかという話が持ち上がり、「いたきそ」の開発・導入に至ったという。
現在、「いたきそ」で行っているのは、「獣害防止用資材の運搬」と「植林する苗の運搬」。一度に運ぶ量は15kg以内にしている。実際にはもっと重いものも運べるが、航空法によって定められた重量で運用しているのだという。
航行性能は、片道400mを往復しても3分程度の速さ。連続飛行時間は15分ほどあるため、多くの資材を運ぶことができる。人力で運んでいた頃と比べるとその作業効率は天地の差だ。
荒天でなければ雨天時の運搬も可能ということで、足元の悪いなか人が重たい荷物を背負って運ぶ危険性もなくなる。これはリスク管理の面でも非常に大きなメリットといえるだろう。
重たいコンテナ苗もドローンでお任せ!
また、この「いたきそ」は運搬用ドローンのためカメラは付いていないが、カメラ付きの市販ドローンで、獣害防止用ネットの点検も行っているそう。
これまでは植林地の周囲をぐるっと歩いて目視で点検していたが、ドローンであれば補修箇所はもちろんのこと、補修に必要な資材の量もある程度把握ができる。作業員の負担はグッと減ることになった。
「一度ラクを覚えてしまうと、帰って来れなくなります」と中川さんは笑う。
マニュアルは誰がいつ見てもすぐに理解できるように作られている。
安全に効率よく運搬できるドローンのおかげで作業員の負担が減った分、現場やその家族にも笑顔が増えたそうだ。木を切らない林業会社の急成長の秘密の一端を見たような気がする。
林業資材運搬ドローン
「いたきそ」徹底解剖!
林業資材運搬ドローン「いたきそ」
・安定航行を可能にする6枚羽
・約15kg(苗木100本)まで運搬可能
・400mを約3分で航行! 連続時間は約13~15分!
・コンパクトに折りたためて持ち運びやすい
驚愕の作業効率
「いたきそ」の運搬能力は、1時間あたり約2,100本。運搬作業者数が5名の場合、一人当たり420本になる。以前は、これだけの本数を人力で運び上げた後で植え付け作業に入っていたことを考えると、その省力化は計り知れない。
「いたきそ」の運搬能力に関するデータ
安定した運航性能
資材の重量や運搬距離にかかわらず運搬時間がほぼ変わらないことが特徴。それはドローンがスピードに乗って目的地まで一直線に飛んでいくためで、この安定性は広大な面積の再造林地で威力を発揮する。
話を聞いた人
中川雅也さん
地元の森林組合に8年勤務したのち、独立。育林事業に特化した「木を伐らない林業」をコンセプトとする林業ベンチャー・株式会社中川を立ち上げ、これまでにない次世代の林業を展開している。
文:梶谷哲也
写真:井ひろみ
FOREST JOURNAL vol.5(2020年秋号)より転載