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縄文・弥生時代から伝承、未来へ紡ぐ森の魂『羽越しな布』とは

縄文・弥生時代から伝わる古代製法の『羽越しな布』。原料のシナノキの皮剥ぎから、その後の緻密な工程を探るため、新潟県の山熊田を訪問した。アートの視点で森林資源の可能性を考える、小見山將昭氏の連載コラム。

縄文・弥生時代から綿々と伝承
化学物質を使わない皮剥ぎ


遡ること2022年6月25日。森の民が暮らす新潟県村上市山熊田へは4年ぶりの訪問となった。JR羽越本線勝木駅と寝屋漁港に程近く、日本海へ注ぐ勝木川のほとりにある廃校温泉宿『交流の館 八幡』が今回の宿泊場所だ。東京からクリエイター・取材チームが7名、京都大学大学院/農学研究科森林科学専攻から4名の計11名がここで自炊宿泊し、山間部の山熊田地区へ車で30分程昇って行く。

推定だが縄文・弥生時代から綿々と伝承されてきた古代製法の『羽越しな布』。その原料となるシナノキの皮剥ぎから、その後の緻密な工程をより深く探る取材が今回の目的だ。この課題の紐解きに4年間を架けたのは、その間に新型コロナウイルス蔓延と直面した事もあるが、真の理由は山熊田の森の民の風土性を重んじた事が大きい。『しな布』の原料となるシナノキの内皮を含む樹皮を剥ぐ時期は梅雨期の数日だけだ。内皮から布にする工程は実に手間がかかり化学物質は一切使わない。古代製法を実直に行う姿勢に、侵し難い精神的風土を感じていたからに他ならなかった。

山熊田の自然豊かな食材
山の恵みに感謝した初夏

4年前に知り合った大滝ジュンコさんは埼玉県出身の現代芸術家だが、今ではすっかり山熊田の住人になっていた。源流栽培の希少なお米や、毎年耕作地を変えての焼畑栽培、清流では山葵が採れ、鮭・鮎・岩魚が獲れ、熊や猪のジビエの食材が村民を潤す。そういった地産物をジュンコさんは我々の為に用意して下さった。訪問直前に人間で言えば年端もいかない若い猪の肉が準備された。男衆のほとんどが林業を行うマタギの里。狩の門外不出の秘伝に従い、山の神から生命を頂くお祀りを行うと聞いて神聖さを覚えた。

この山の生命の提供は、我々に対する村の総意であり歓迎の意に他ならない。山の恵みを尊び敬う山熊田の心が振動して胸に入ってきた。そういう理由から、同行の一級建築士の小西昌太さんと私は、皆を代表し村の鎮守の浅間神社に御神酒を奉納し、社殿前で村の悠久の息遣いに低頭した。


(左)山の斜面を利用した赤カブの焼畑、(右)山熊田川に日本海から遡上した鮭



森の中に鎮座する山熊田浅間神社参道。





森が織りなす
古代と未来の交流

今回の旅は、古代と未来のオルタナティヴ・カレント(磁場交流)の風と風が交わり、雲を巻き上げ深い森に舞い上がった、とイメージできる。その片鱗は、京都大学の高部圭司名誉教授とジュンコさんの対談に表れている。4年間に及ぶ高部教授の科学者としての“ハテナ?”は、300余年前(推定)に作られた『しな布』が、今でも現役で日用品として使用されている『理由』につながったという。(※この対談は末尾のYouTube のURL でご覧いただけます。)

途方もない永い時を経て山は森を育んだ。森の資源はメガポリスの生活の細部に木材などで利用され、昨今は木質バイオマス等で、昔の薪や木炭に替わるエネルギーをも供給している。水が岩盤や土を伝い植物や動物を生かし、我々はそれらを食媒体として、太陽エネルギーを、ミネラルを、多くの元素を身体に取り入れ生命が保たれている。

大都市の利便性を図るため、効率的に森の恵みを製品に変換する工程は、ともすると森林生態系破壊や海洋汚染が生じやすい。現代の社会構造が生物多様性や次に地球を担う若い頭脳や身体に害を与える事実を認識し、政府・自治体・企業や大人たちは、森林と共生する人間社会を再考する必要がある。山熊田地区の住人は現在41人で限界集落だが『不自由の中の自由さ』がみられた。そして、自然を敬い自然に逆らわない生活がある。改めて本来あるべき日本風土の独自性を感じた。


一年に梅雨期の数日を定めてのシナノキの樹皮剥ぎ



調査で同行した京都大学大学院生/太田果南さんの体験姿



内皮の繊維を撚って糸にする


風土が結びつける
森の科学と芸術が果たす役割


(左・右)チュチュ制作過程 制作/赤松香織(中央)バレエのチュチュ着用姿 モデル/上田菜央/京都大学院生


今回の旅は若い感性を持つ学生と、クリエイターが参加した事が大きかった。京都大学からは修士課程1年の上田菜央さん(地衣学者)、ファッションデザイン&着物縫製師の赤松香織さん(『しな布』をコルセット部にバレエのチュチュを制作)プロデューサーの私などが参加した。

脈々と人の感受性と所作が積み重ねられた痕跡の『理由』の扉を開けていく時に『科学』の瞳は見開かれる。科学と芸術が近親であることはレオナルド・ダ・ヴィンチにより証明されていると言ってよい。理論物理学者アルベルト・アインシュタインは『全ての宗教・芸術・科学は同じ一つの木の枝である』という言葉を残している。そういう意味で『羽越しな布』にはこの両極が見てとれる事が今回の取材で解った。沖縄の『芭蕉布』、遠州の『葛布』を含む日本三代古代布のそれぞれに風土とともにアート&サイエンスの両極が見られる。優美ながら存続が難しい山梨県都留郡の絹織物『甲斐絹(かいき)』と比べ、『しな布』が近代まで残ったのは奇跡と言って差し支えないだろう。

私たちは一泊二日という限られた時間の中、学び、語り、遊び、音楽を奏で、奥深い山に分入り、そして良く食べた。夏の訪れを肌で感じ、とても暑い初夏の刻を過ごした。そして新たに設置されたジュンコさんの古民家の機織り工房で対談を行い、丁寧に『しな布』を機織りするジュンコさんの姿と山熊田の景色を、私たちは心にも織り込んだ。
対談の内容は、下記のYouTubeからご覧いただきたい。



PROFILE

創造再生研究所/所長
クリエイティブ・ディレクター

小見山將昭


祖父が木挽職人。両親の勤務先JA敷地で育つ。音楽マネージメント&プロデューサー。上場企業コンサルや地域再生コンテンツプラン等。

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