注目キーワード

林業者の取り組み

森のミクロなデザイナー「地衣類」って知ってる? 私たちをそっと支える縁の下の力持ち

森林生態系と生物多様性に貢献する「地衣(ちい)類」とは。京大院生の上田さんの話を通じ、「豊かな森」の生態系を敬う小見山將昭さんが『森のアート&サイエンス』を独自の目線で語るコラム。

 

話してくれた人

京都大学 Kyoto University
農学研究科森林科学専攻 熱帯林環境学研究室 修士課程1年
地衣学者 Lichenologist

上田菜央(うえだ・なお)さん

インタビュアー

創造再生研究所
SAKUWOOD認証協議会(自然乾燥、トレーサビリティ木材民間認証)
SAKUWOODブランド 代表

小見山將昭氏


山野楽器やヤマハを経て、音楽プロデューサーとして活動してきた経験から、楽器に使用されている木材に着目。

 

「地衣類」を研究する
上田菜央さんとの出会い

「森は樹木だけでつくられているのではない」

2018年9月23日、私は羽越本線の新潟県村上駅のベンチでうたた寝をしていました。新潟から酒田へ向かうJR羽越本線の府屋駅から山間へ入り、古代布「しな布」の調査のため、京都大学森林科学科の髙部圭司教授(現/名誉教授)と共に山熊田地区を訪問する予定だったのです。

そこに髙部圭司教授の車が到着し、車の中からTシャツとジーンズ姿の1人の女性が出てきました。聞けば「どうしても同行させて欲しい」と髙部教授を説得し、大学からも許可をもらって同乗して来たといいます。それが現在、京都大学大学院で地衣(ちい)類を研究する上田菜央さんとの出会いでした。

私は、地衣類という言葉は知ってはいましたが、興味を示すほどではありませんでした。「みんな知らないんですよね」と上田さん。しかし彼女の話から、名前が示す「地の衣」、まるで地がまとうビロードのように多くの種類の地衣類が棲息していることを知りました。

地衣類は、大気汚染に非常に過敏なことから「指標生物」とされています。また、漢方薬に使われたり、火口や寒冷地や砂漠に進出したりしています。そのことを知ると、「これからの人類の薬学や宇宙進出や、地球の大気浄化のために役立ってくれるのではないか?」とイマジネーションが湧きました。

 

都市部でも観察できる
「地衣類」とは?

小見山 地衣類とは何か? わかりやすくご説明をお願いいたします。

 
上田 地衣類は、藻類と安定した共生状態にある菌類です。

地衣類の共生は、いわゆる相利共生(Win-Winの関係)で、菌類が構造をつくり、藻類がその間に入り込んで光合成産物を提供しています。この関係は密接で、菌類と藻類の分離培養が成功していない種も存在します。

地衣類は、世界で約20,000種、日本で約2,000種が確認されており、都市部においても何種か観察できます。地衣類はあらゆる物体をハビタット(生息地)とするため、例えばネットの上(図1)や橋(図2)など、身近なところで見ることができます。


図1:ゴミ収集所のネットに着生する葉状地衣
(京都市右京区 / 2021年2月撮影)


図2:石造りの橋に着生する固着地衣
(大津市 / 2022年4月撮影)

 
小見山 そもそも上田さんは、いつから地衣類に興味を持ったのですか?

 
上田 「地衣類」という語句は、高校で扱う生物基礎の「植生の遷移」という単元で登場します。しかし、私が地衣類という言葉を認識したのは生物の授業ではなく、高校1年生の夏のイベントでした。

私が通っていた兵庫県立神戸高等学校総合理学科はSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されており、高校2年生の1年間「課題研究」という探求活動がありました。この成果を、当時1年生だった私たちに向けて高校3年生が紹介する機会があり、その先輩方が扱っていた生物が地衣類だったのです。そのとき、地衣類という私にとって「未知の生物」を調査していることに、憧れを感じたのをはっきりと覚えています。

その後、高校2年生になった私は、ウメノキゴケ(図3)の二次代謝産物と大気汚染の関係をテーマに決めました。この調査を進めるうちに様々な地衣類が身近にいることを知り、「未知の生物」から「仲良くなりたい友達」になったことで、さらに興味を持つようになりました(図4)。


図3:高校の課題研究で使用したウメノキゴケ
(神戸市灘区 / 2016年9月撮影)
図4=右下:樹皮に着生する葉状地衣を形取ったチョコレート
(高校2年生のバレンタインデー用に作製、2017年1月撮影)

 
小見山 そして、いよいよ研究者としての道に進んだわけですね。

 
上田 高校2年生の夏から参加したELCAS(京都大学主催の高大連携プログラム)で、地衣類の内部構造を電子顕微鏡でのぞいた経験から、大学で地衣類を深く知りたいと感じ、当時お世話になった髙部先生がいらっしゃった農学部森林科学科に入学しました。

4年間の森林科学科での学びから樹木に対する関心も深まり、現在は、樹皮に着生する地衣類と樹木の生態学的関係に興味を持っています(図5)。


図5=右:ELCASで使用したウメノキゴケの電子顕微鏡用試料
〜地衣類の内部構造を電子顕微鏡でのぞいた経験から~
(2017年2月撮影)
図6=左:亜熱帯二次林で樹皮に着生する地衣類の調査の様子
(屋久島町 / 2021年12月撮影)

 



12

関連記事

林業機械&ソリューションLIST

アクセスランキング

  1. 様々な工夫を凝らして森林の回復を目指す! 林業家の努力と取り組み
  2. KANEKO重機が林業展で薪割り機を発売! モデルチェンジでさらに使いやすく進化!?...
  3. 『きちんと応募がくる』林業専門の求人サイトRINDOがオープン! なぜ今、開設?...
  4. 京大発企業が開発! 林業現場で“気軽に使える”ドローン+AIの森林計測ソフトとは?...
  5. ベテランフォレスターが徹底比較! 現場目線で語るアイテム試着レビュー【ヘルメット編】...
  6. 【2023年版 大型チェンソー7選】メーカーに聞く「林業向け」機種、最適な1台は?...
  7. “伐らない林業”が目指すもの【後編】中川流、新しい林業の働き方とは?...
  8. ベテランフォレスターが徹底比較! 現場目線で語るアイテム試着レビュー【防護パンツ編】...
  9. 木を食べる&木で調理する! 「味覚」から考える木材活用法が続々誕生中...
  10. 「稼げる林業の方程式」とは? 4人の林業家を通して見つけた重要ポイントを解説...

フリーマガジン

「FOREST JOURNAL」

vol.18|¥0
2023/12/22発行

お詫びと訂正

» Special thanks! 支援者さま一覧はこちら