山林火災を防ぐ! 100機のAI搭載ドローン編隊と枝や葉を燃えにくくする「熱ゲル水溶液」
2026/10/28
山林火災は鎮火までに長期間を要し、被害が拡大するケースも多い。そんな中、AI搭載ドローンで延焼防止効果の高い新たな消火剤を散布し、安全かつ効率的に火災を鎮圧させる技術の開発が進んでいる。
メイン画像:国内外で多発する大規模山林火災。従来は北米など海外で毎年大きな被害を出してきたが、気候変動の影響で国内での発生増加も懸念されている。
1.多発する山林火災 難航する消火活動
2.難焼性「熱ゲル水溶液」に着目 空中散布で延焼防止に効果
3.ドローンを編隊飛行 防火帯を安全に構築
4.無資格でも使える技術を林業関係者の協力に期待
多発する山林火災
難航する消火活動
大規模な山林火災は、これまで北米など海外で毎年大きな被害を出してきたが、近年は国内でも相次いで発生。岩手県大槌町(今年4月発生)や同県大船渡市(昨年2月発生)の山林火災では鎮火までに1ヶ月以上を要し、大船渡市山林火災では焼失面積が3000ヘクタール超に及んだ。気候変動によって国内でも今後、春の乾燥期を中心に発生しやすくなる恐れが指摘されている。
ただ山火事は稲妻など不確定要因による発生もあるため、未然防災が難しく、いかに広げないかという減災が重要になる。国内では、これまでヘリコプターによる放水や消防隊による地上での消火活動が主に行われてきたが、室蘭工業大学の廣田光智教授は「ヘリの運航や消防隊員の安全確保の面で活動は基本的に日没までに限られます。日中の消火活動と夜間の延焼拡大が一進一退になり、焼失面積が広がる原因の一つになってきました」と課題を挙げる。
その上で早期鎮火には「昼夜を含めて延焼拡大を防ぐとともに、大きな被害をもたらす住宅地への延焼防止に消防や自衛隊が注力できる体制づくりが求められています」と話す。
難焼性「熱ゲル水溶液」に着目
空中散布で延焼防止に効果
多くのハードルを抱える山林での消火活動で廣田教授が着目したのが「燃えにくくする性質」(難燃性)を持つ「熱可逆性ゲル水溶液(熱ゲル水溶液)」だ。
「熱ゲル水溶液にはとろみがあり、散布すると木の葉や枝をコーティングして消火したり燃えにくくしたりする機能が分かっています。熱や炎で加熱されると固まってパック状になり、火の粉が飛んで来ても燃えにくくなる。散布後に蒸発する水と違い、1週間後でも同じ性質が残っているので、延焼防止効果を長期間維持できます」。
熱ゲル水溶液の主原料は食品のとろみ付けにも使われるメチルセルロース。鎮火後は自然分解されるため、環境に負担を掛けないのも特徴だという。
さらに「メチルセルロースを使う熱ゲル水溶液は現場で簡単に作れ、水のように一般的な消防ポンプで散布できるのが大きな特徴です」と廣田教授。河川水や海水などに約1%の濃度で混ぜるだけで準備できる。さらにメチルセルロース自体は軽量なので、従来の高粘度タイプの消火剤と比べて山林内への運搬の手間も大きく減るという。
●熱可逆性ゲル水溶液の消化剤
散布時はゲル状で、火災の熱で高温になると固まる性質がある熱ゲル水溶液。枝葉などに散布してコーティングすることで、高い延焼防止効果が期待されている。
ドローンを編隊飛行
防火帯を安全に構築
イラストは山火事と廣田教授が構想するAIドローンの編隊をヴィジュアル化したもの。室蘭工業大学の広報誌『蘭岳 No.151』の【空翔ぶ「め組」。】特集内で使用された。いまや同校を挙げた一大プロジェクトとなっている。
山林火災の減災に大きな効果が期待される熱ゲル水溶液。ただ地上からにせよヘリにせよ、現場での散布には危険が伴う。そこで廣田教授が着目したのが、AI搭載の電動式有翼ドローンによる無人空中散布だ。
「三列の編隊を組ませて一度に合計100機程度飛ばします。一列目が火災感知、二列目が散布計画の立案、熱ゲル水溶液を積んだ三列目が空中散布します。煙や熱で万一、一列目が墜落しても、二列目以降がその機能を補完できるようにプログラムし、任務完了後は発着場所に帰還。新たに熱ゲル水溶液を積んで再び出動する技術を研究しています」。
この方法の狙いは①消火活動を無人化し、二次災害の危険を減らす②無人化で生まれたマンパワーを集落への延焼防止など人でしか難しい作業に当てる③熱ゲル水溶液の広域散布で、人力では難しい延焼防止帯を構築する―の3点だという。
「ドローン1機が運べる熱ゲル水溶液は1〜10キロ程度。1回につき100機程度の編隊飛行を数回行いながら、幅数百メートルの延焼防止帯の構築を目指しています」。ドローンを使った山林火災検知技術の開発は海外などで進められているが、消火剤散布での活用は例がないという。
●試験機として開発されたドローン
「機体の耐熱性強化やICチップの冷却機能など、学内の他の研究室とも連携して研究を進めています」と廣田教授。
●消火戦略を左右する延焼防止線の形成
人の手を介さなくても火勢の拡大を食い止める延焼防止線を設けることで、効率的な消火活動の展開が期待されている。
無資格でも使える技術を
林業関係者の協力に期待

廣田教授がこうした消火技術の研究を始めたのは3年程前。現在は消防庁による山林火災対策の助成金の共同研究者として、消防・防災用資機材メーカーとも連携しながら研究開発を行っている。
「ドローン操縦の資格がなくても、ボタンを押せばAIによる判断で離陸、火災検知、延焼防止帯作成、帰還、熱ゲル水溶液補充、再離陸などを自動で行うシステムを開発しています。消火剤と併せて数年後までの製品化が目標で、林内での散布状況の確認や実証エリアの提供などで林業関係者の方々の協力もお願いしたいです」。森を守る新たな技術の開発に林業者も注目したい。
PROFILE
室蘭工業大学教授
廣田光智さん

室蘭工業大学大学院工学研究科教授。燃焼工学が専門。着火から利用、消火まで火に関するあらゆる事象を研究。
取材・文/渕上健太
イラスト/岡本倫幸
FOREST JOURNAL vol.29(2026年秋号)より転載














