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流木や古材に生命を宿す、地球を守る家具職人 日常生活で木に親しむヒントは

秋田県にかほ市の海沿いに工房を構える家具職人の濱田政光さん。地域の廃材や流木に加え、自ら山を購入・管理してきた豊かな手仕事の歩みを通し、私たちが日常生活で木に親しむヒントを探る。

トチの木のプレートを仕上げる濱田政光さん(秋田県にかほ市)

<目次>
1.生活者の視点で オーダーメイドの家具づくり
2.自分自身の山で繋ぐ 木の成長と生命
3.日常生活で 木に親しむヒントとは
4.生涯現役で 木に向き合っていきたい

 

生活者の視点で
オーダーメイドの家具づくり

濱田さんの家具工房「一羊舎」(秋田県にかほ市)

鳥海山と日本海が出会う秋田県にかほ市金浦。その海沿いにある濱田政光さん(76歳)の工房「一羊舎」には、木の優しい香りが満ちている。屋根に太陽光パネルを備えた工房内には手道具や機械が所狭しと並び、職人の温もりある手仕事が息づく。濱田さんは木々の声に耳を澄ませるように、日々静かに家具と向き合っている。

濱田政光さんは北海道江別市生まれ。東京都内で小学校教諭を6年間務めたあと、安全な食や暮らしのあり方を求めて1983年に33歳で妻の故郷である秋田県へ移り住んだ。35歳のときに家具職人としての歩みを始めたが、それに先立ち、木の見方や製材の手ほどきを根本から学ぶため、地元の製材所で2年間勤務した経験を持つ。ノコギリやノミ、カンナといった手道具の感触を慈しみながら、帯鋸盤などの機械も巧みに扱い、主にケヤキ、クルミ、クリ、ミズナラといった広葉樹を優しく仕立て上げてきた。

濱田さんの木工作品広葉樹を優しく仕立て上げた濱田さんの木工作品

広葉樹の木目を生かしたプレート。材料は左からハナイタヤ、ハナイタヤ、ケヤキ

濱田さんが大切にしているのは、使う人の気持ちによりそうオーダーメイドの家具づくりである。教員時代に出会い、長い年月愛されてきた西欧の古い家具がもつ落ち着いたたたずまいに魅せられたことが原点にある。使えば使うほど生活になじみ、愛着が深まっていく道具としての家具をひたむきに追い求めてきた。製品を企業化して高価格にし、限られた人しか木製品を手に入れられない現状に対しては疑問を感じている。職人の手間や材料費に見合った心地よい価格設定を心がけ、だれもが日常の中で木と触れ合える暮らしをそっと支えようとしている。

濱田さんが温かな情熱を注いでいるのが、本来なら捨てられてしまう廃材や流木、建築の古材を生かした家具づくりである。海岸に流れ着いたミズナラの流木をノコギリで切り出してベンチへと生まれ変わらせたり、にかほ市内で無償提供されていた街路樹の伐採木(ケヤキやプラタナス)を譲り受けて家具の材料や薪として生かしたりしている。さらに解体された古い蔵から出た樹齢100年以上のケヤキの古材も大切に買い取り、新たな息吹を吹き込んでいる。

そうした素材がもつ豊かな魅力について濱田さんは「表面を削ると木本来の素地が顔を出します。ただそれはつくったばかりのときの色ではなく、長い時を経て深みのある落ち着いた発色へと変化しているのです。そうした素晴らしい経年変化が、流木の場合はより早く現れるのかもしれません」と話す。

波にもまれた流木や時を重ねた古材は、じっくり乾燥していて変形しにくく、新品の木材にはない深く落ち着いた風合いをみせる。高級な無垢材を求めるのではなく、見過ごされがちな木材の中にやさしい価値を見出し、世界にひとつだけの表情を引き出す点に濱田さんの温かな手仕事があらわれている。

自分自身の山で繋ぐ
木の成長と生命

自分の山で育てたケヤキの原木を切る濱田さん

濱田さんはいまから約30年前、40代の頃に友人とともに、約90アール(持ち分2分の1で約45アール)の山林を購入した。当時はまわりの山々で伐採が進み、スギの単一植林が広がっていた時代であった。スギばかりが植えられる自然の偏りに小さな危機感を覚えた濱田さんは、元の穏やかな山林の姿を少しでも残したいという思いから、友人と資金を出し合って小さな山を買い取った。当時は自らの家具づくりの材料にするつもりはなく、ただ山を守りたいという純粋な思いからの行動であった。

買い取った山へ足しげく通い手入れを続ける中、濱田さんは工房近くに自生していたケヤキの実生を、自らの山林へ移植して大切に育てる取り組みを始めた。自然の恵みに見守られながら穏やかな歳月を重ねたケヤキは、43年の年月を経て樹高約13メートル、根元の直径約45センチ、枝が逆箒型(さかさぼうきがた)に美しく伸びた立派な木へと成長を遂げた。

そして2025年11月、丹精込めて育て上げたケヤキの伐採が行われた。原木を切り出し、自分の手で製材して家具の材料へと仕立て直す一連の物語を通じ、濱田さんは小さな実生から木へ成長し、暮らしの道具へ生まれ変わる自然のエネルギーを感じ取ったという。「植えた当時は、よもやこれほど立派な丸太や家具の材料に育つとは想像もしていませんでした。ケヤキの成長速度は環境によって極端に異なりますが、運よく条件に恵まれたようです。木の成長は遅いものと思い込んでいましたが、自然が持つエネルギーの力強さには本当に感服させられます」と微笑みながら語る。

日常生活で
木に親しむヒントは

広葉樹の名刺入れ広葉樹で製作したオリジナルの名刺入れ。材料は左からトチ、イタヤカエデ、モミジ

林野庁は2027年度予算の概算要求において、新たな事業として『「森の国・木の街」創造連携イニシアティブ事業』を盛り込んだ。この事業は、森から街までの関係者が手を取り合い、建築物の木造化や木材製品の活用、付加価値の向上を集中的に支える取り組みである。国や自治体が主導して木材の利活用を進める中で、林業に携わる人々や家具職人といった、現場における等身大の実践が大きなカギを握っている。

私たちが日々の生活の中で真に「木に親しむ暮らし」をかなえるには、どのような取り組みが必要なのだろうか。人工的なシートやプラスチック建材に囲まれがちな現代の住まいにおいて、表面的な木目調ではなく、生命ある素材としての木にじかに触れる機会を増やすことが求められる。普段使う道具や住空間に無垢の木をやさしく取り入れ、その温かな肌ざわりや年月の経過とともに深まる味わいを感じ取ることこそが、木への親しみを育む第一歩となる。

一方で、一般の買い手が木に親しむ上で障害となっているのが、市場におけるこだわりの木製家具の高価格化問題である。

「つくり手の選り好みで高額な値段をつけてしまえば、限られた富裕層しか木製品を買えなくなってしまいます。製作にかかった時間や材料費に見合った適正でリーズナブルな価格を設定し、多くの人が手に取りやすい環境をつくることが必要なのではないでしょうか」と濱田さんは訴える。

生涯現役で
木に向き合っていきたい

軽くて丈夫な椅子の試作品。フレームはオニグルミ、座面の一部にはケヤキの古木を使用している

木とともに過ごす暮らしの原点について、濱田さんは「日常の中に当たり前に木がある環境をつくることが大切なのではないでしょうか。木とともに日常生活を営んでこそ、その本当の良さを実感していただけるのです」と静かに語る。住まいの中で本物の木に囲まれ、ともに時間を重ねていくことこそが、木材の利用や豊かな森林循環を支える実感へとつながっていく。

そうした思いを形にするため、濱田さんは現在、軽くて丈夫な新しい椅子の試作に励んでいる。フレームにはしなやかで薄く曲げても折れにくいオニグルミを用い、背もたれの笠木や座面の一部には解体された蔵から引き取ったケヤキの古材をあしらっている。出来上がった試作品の重さはわずか約4.6キログラムで、だれでも軽々と持ち運ぶことができる。木製でありながら軽やかさとしっかりした強さを兼ね備えたこの椅子は、日常での使いやすさをやさしく追求した一品である。

試作した椅子について濱田さんは「構造を極めてシンプルに設計することで、約4.6キログラムというこれまでにない軽さを実現しました。金属製フレームの軽さには及びませんが、木目の表情を活かしつつ軽量性と耐久性を高次元で両立させる椅子づくりは、木工に携わる者にとって永遠の課題です」と柔らかな表情で思いをのぞかせる。
使いやすく暮らしになじむ家具が広がることは、人々がもっと身近に木と親しむ素敵なきっかけとなっていく。

76歳になったいまも、濱田さんの手仕事に対するやさしい情熱が消えることはない。地域の流木や廃材、古材に至るまで、あらゆる木の生命を温かく受け止め、暮らしの道具としてそっと寄り添わせる創作活動に、生涯現役で向き合い続けている。これからどのような家具をつくっていきたいかという問いに、濱田さんは力強く、やさしい言葉で答えてくれた。

「自分の身体が動く限りは、木のぬくもりを大切にした製品をつくり続けます。家具づくりができる健やかな状態であるならば、いつまでも木に向き合っていきたいです」。自然の恵みに深く感謝し、一本の木を慈しみながら使いやすく確かな家具をつくり続ける歩みの中に、これからの木材利用の理想像が示されている。

DATA

家具工房 一羊舎


取材・文:フォレストジャーナル編集部

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