自分の山の地図は、自分でつくる。今と将来への森林活用のために【後編:境界線確定】
2022/02/25
いま林業での課題のひとつに「境界明確化」がある。境界明確化に不可欠な地図づくりは、なんと自分でやってしまえるという。どのくらいの精度を目指すか、どんなICTを活用していくのかを紹介していこう。
森林活用のための地図
どうやってつくる?
森林管理には、やはり自分の森林の地図をつくっておくべきだろう。それが森林活用の第一歩にもなる。
とはいえ、専門の測量士などに依頼すると、費用も日数も非常に多くかかる。誤差は数cmレベルの正確なものをつくれるだろうが、おそらく1haで50万円以上かかる。だが、当面利用するための管理ならば、10m程度の誤差精度でも十分だ。それなら個人でも測量して地図をつくることができる。
最近はハンディタイプのGPSレシーバー、もしくはスマートフォンを持って境界線を自ら歩くことで、足跡を地図に落とすことができるようになった。そこにGISソフトを活用すれば、素人でも簡単に自分専用の地図ができる。もしくはSBAS(衛星航法補強システム)と呼ばれるシステムもあり、通常のGPS衛星の電波だけでなく、静止衛星による補正電波を受信し、測位精度を向上させることができるようになった。場所にもよるが誤差1~2mまで精度は上がっている。
また、境界線確定業務を請け負う奈良県の吉野森林管理サービスでは、担当者が現地に入って調査するだけでなく、所有者自身に方法を教えて境界線確定作業を行ってもらうようにしている。ここでは、GPSレシーバーを貸し出すほか、所有者のスマホに地図アプリと専用地図を入れて、境界線を歩いてもらう。スマホを持たない所有者には、GPS利用専用のスマホを販売しているそうだ。携帯電話の電波が届かない山奥でも、GPS衛星の電波さえ受信できれば可能だから、携帯電話会社へ登録しなくても行える。
境界線のデータは、地籍図のある山ならそのデータを利用するが、国土調査がまだ済んでいない場合は「地図に準ずる図面」と標記される森林計画図などを使う。こちらの精度はかなり落ちてしまうが、参考にはなる。ここに前回紹介した『森林境界明確化支援システム』などを使って精度を上げることも可能だろう。
所有者自ら境界線を歩いて記録したデータを送ってもらい、それを3D地図に仕上げて送り返す。加えて地質図や植生図などを地図に重ねれば、所有森林の境界を確定させる以上に森林整備などの施業にも役立つはずだ。
つくった地図は
未来へと繋がる道標
森林の境界を法的に確定させるには、境界線両側の所有者が立ち会いの元に了承しなければならない。場合によっては双方の主張に食い違いが出て確定できないことも有り得るが、その場合も、自らのGPSによるデータは強い武器となるだろう。地図データは、メールなどでやり取りできる。だから所有者だけが保管するのではなく、相続予定者などにも送っておけば、将来に渡って境界線が不明になる心配は低減できるだろう。仮に自分の家の持ち山に興味を持っていない子息も、いざという時の相続手続きなどをスムーズに引き継げるはずだ。また具体的な所有森林の地図を見たら、興味を示すかもしれない。
現状では森林を経営するのは難しいと判断しても放置するのではなく、将来を見据えて森林を残すために境界の明確化は欠かせない。なるべく早く行うことをお勧めする。
PROFILE
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。