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富山発! 『森林境界明確化支援システム』で使える地図を【前編:境界線確定】

いま林業での課題のひとつに「境界明確化」がある。これ無くしては施業に進むことが難しいが、山主が不明になっているケースが多い。それでも前に進むべく情報をさかのぼるために開発されたシステムを紹介していく。

この森林はだれの持ち物なのか
その証明を

森林管理業務を行うに当たって、もっとも基本で、もっとも大切なのは、所有境界の確定だろう。さもないと森林の活用は不可能になるし、資産として維持できなくなる可能性が高い。しかし近年は所有地から遠くに住むようになったことや、世代交代などが進んだ為誰の所有かがわからなくなるケースが増えている。

国も所有者不明森林への対策として、改正された森林法や森林経営管理法で市町村が探索して「公告」と「同意みなし」を行う特例措置などを設けている。そうなると、期間内に異議を申し出ない限り、自治体が森林の利用権を取得することになる。そうなる前に所有者自身が境界を明確にする努力が必要だ。相続だけでなく、売買や新事業計画が持ち上がった際に、問題が複雑になるケースが少なくない。近年は盗伐も頻発しているが、それを証明するためにも必要となる。

しかし森林の境界線は人の記憶に頼るところが多く、確定させる情報が少なく難しい。それを最近のデジタル技術によって行いやすくする技術やシステムを紹介しよう。



富山発
境界明確化ツール

まず富山県森林研究所の小林裕之研究員が地元の新川森林組合と共同で開発した『森林境界明確化支援システム』だ。

これは、撮影時期の異なる古いアナログ空中写真を利用して、森林の所有境界を浮かび上がらせようという試みだ。航空機等から撮影された昔の森林地帯の写真は、意外と数多くある。それらは現在、国土地理院などに残されていて、一般利用も可能だ。

モノクロ写真でも、厳密に分析することで植生や樹齢の違いなどを読み取ることができる。また、所有者が違えば、過去の施業の違いが出るのだが、時期の違う空中写真を複数使うことで、いつ地拵えや植林などの施業したのかといった情報が判読できるのだ。それを元に境界線を確定する一助にすることができる。

ただ問題があった。空中写真は、レンズの中心からの投影であるため写真の周辺部にゆがみが生じるのだ。すると正確な位置が示せない。ときに何十メートルもズレが出てしまうことがあり、そのまま画像から境界線を決めるのは難しい。そこで、このゆがみを真上から見た画像に補正するオルソ変換という技術を用いる。そこに公図と登記簿から作成した森林素図(地目・地番・面積・所有者名)や国土地理院の標高データを重ねて、森林所有界を推定しようというのだ。カシミール3Dなどの無料GISソフトを使うと、3Dの鳥瞰図やカメラ高度、方位角なども自在に動かせる地図に仕上げることもできるようになる。

こうした客観的データを元に現地調査を行えば、境界線確定の手間をかなり軽減できるだろう。また隣接地などの関係者の納得も得られやすい。このシステムは、特許や商標登録をしていず、また使うのもフリーソフトが多いから、導入は比較的容易だ。

富山県では2013年度に現地検討会が行われて、翌年からは実際の境界線確定作業に取り入れられるようになった。また20年度から群馬県も、過去の空中写真のデータベース化やオルソ化などに取り組み始めている。

所有者の高齢化は進み、森林境界が不明になるケースは増えている。さまざまな技術を応用して早く境界明確化に取り組むべきだろう。
 

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。

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