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スマート林業は働く人の生きがいに寄与できるか。便利さ、効率性の裏に潜むものとは?

林業機械の自動化など、効率化・省力化すべく開発が進められるスマート林業。新しい技術は喜ばしいものだが、改めて現場視点で林業の未来を想像してみよう。森林ジャーナリスト・田中淳夫が考える希望の林業とは?

スマートな林業が
続々登場している

最近、スマート林業という言葉がよく登場するようになった。ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)を導入して、森林管理や林業施業の効率化を図る林業である。

具体的にはドローンや航空レーザー計測、各種センサーと分析ソフト、そしてクラウドなどを利用し、森林資源や木材の量・質などの精密データを得るとともに、現場から市場までの情報共有を進めるものだ。そして最適化を行う。

なかでも注目されるのがIoT=モノのインターネットだろう。現場で使用する機材が直にネットにつながり、現場の情報を収集するシステムである。

たとえばプロセッサやハーベスタなどの林業機械が、稼働中の情報をセンター(経営者の元)に送る。丸太の断面を撮影すれば材の太さや断面積がわかるし、長さなどのデータも取得できるだろう。それを市場に送れば買い手とのマッチングもできる。

最近では、スマート・チェンソーの発想も出ている。チェンソーの稼働状況を測定して情報共有を進めるのだ。たとえばチェンソーおよびそれを使う人の移動や作業姿勢、エンジンの回転数、使用時間といった動作データを収集する。

それを解析すると、どのチェンソーが、何日何時にどこでどのような使い方をされて、何本の木を伐ったのかを把握できる。すると木材生産量が推計できて、個々人の作業報告(日報などで)を行う手間もなくなる。さらにチェンソーを扱う人の伐倒技術や安全性、そして生産効率も管理できるのだという。新人教育にも役立つし、万が一の事故にも対応しやすい。

とまあ、バラ色の未来を描くスマート林業だが、少し原点に返って、山の現場で働く人の視点でも考えてみる必要がある。




 

スマートな機器は
働くひとの意欲を奪わないか……?

情報を共有すると、経営者が事務所に居ながら現場の人を管理する状況になる。個々人の行動も知られ、たとえば休憩時間や現在位置などがリアルタイムに把握されることになる。作業員からすれば、常に監視されているように感じるかもしれない。それに作業上の判断を当人に任せず、常に本部からの指示、あるいはAIの判断に任せて行うことが、本当に作業効率を上げるだろうか。

通信によって得られる情報では、個人の体調や細かな地形や気象などはつかめない。木材の質も数値だけではわからない面がある。それを画像だけで判断した場合、最適な結果を生むだろうか。また現場で働く人の裁量をなくしてしまうと、仕事への意欲を奪ってしまうことも考えられるだろう。

かつて製造工場などでは、効率を上げようと作業を細分化して流れ作業にした。

ベルトコンベア方式と表現されるが、目の前に流れてくる部品に対して同じ作業を繰り返すだけで全体の動きを知ることはなくなった。すると結果的に働く人の意欲が落ちて効率も悪くなった。現在は一人に幾種類もの工程を任せる方式が主流になりつつある。その方が個人のスキルが上がり効率も上がったのだ。林業も同じ面があるかと思う。

そもそも効率だけではない。森の中で周りを見ながら自分が何をするべきか考える。自分で工夫して仕上げると達成感を得られる。それが働くことの醍醐味ではないか。

そのうえ生産性アップは、収入アップと必ずしも同じではない。仕事が増えたのに賃金は上がらないようでは、本末転倒だ。ICTは、経営者の管理ツールだけではなく、森で働く人々の労働環境をよくするとともに、生きがいにも寄与する技術として使いたい。同時に森林資源の持続性や環境への寄与にもつなげるべきである。
 

PROFILE

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)など多数。最新作は、明治の元勲が頼るほどの財力を持ち、全国の山を緑で覆うべく造林を推し進めた偉人・土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。奈良県在住。

著書

『山林王』


2023年3月25日発行/神泉社

吉野の山中に、明治の元勲が頼るほどの財力を持った山林王がいた! 土倉庄三郎。100年先を見すえて生涯1800万本の樹木を植え、手にした富は社会のために惜しげも無く使い切った。いまこそ、私たちが知るべき近代日本の巨人である――河合 敦(歴史作家)




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