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「駆除」「予防」「防護」林業の獣害対策に決め手はない! 知識を身につけ適切な対策を

林業においても獣害が全国に広がっているのを知っているだろうか。農業被害と異なり、対策が難しい林業において、獣害対策では何をすべきなのだろうか。森林ジャーナリストの田中淳夫氏が「希望の林業」を語る連載コラム第5回。

獣害対策に決め手はない!
十分な知識が必要

野生動物が人間社会に危害を与える、いわゆる獣害が全国に広がっている。だが指摘される被害の多くは農業被害で、林業における被害はあまり注目されていない。

林業被害の一つは、植えた苗を食われることだ。最近は皆伐が増えて再造林を必要とするが、植えても全滅させられるのだ。さらに収穫間近の木々の樹皮が剥がれ、木材としての価値を台無しにされる被害も大きい。また山中で作業中にクマに出会った場合、身に危険を感じる問題もある。

農業被害の場合、対策は大きく分けて3つある。農地に出没する害獣を罠や猟銃で仕留める「駆除」、農地に引き寄せる農業廃棄物の撤去や、臭い・音などで忌避させる「予防」、そして作物や農地全体を柵や網で囲う「防護」である。

ところが林地の場合、いずれの方策も至難の業なのだ。

そもそも広い林地で効果的な「駆除」は難しい。罠を仕掛けても奥山では定期的な見回りもできないだろう。「予防」も、害獣を誘引する餌となる植物を取り払うのは不可能だし、広すぎて追い払えない。かろうじて造林地に柵を築く「防護」は行われているが、メンテナンスが行いにくく複雑な地形の山ではどこかに綻びができて侵入されやすい。何より、いずれの方策もコストが莫大にかかる。

とはいえ手をこまねいているわけにはいかないので、各地で様々な試みがされている。

苗の防護には造林地全体を柵で囲むのではなく、個別の苗に筒状のカバーを被せるツリーシェルターが提唱されている。またパッチディフェンスと呼ばれる小面積の囲みをいくつも設置する方法も試みられている。大面積を囲う柵と違って動物の通行を妨げないし、幾重にも重なるように柵があると警戒心を高めて近づかなくなるらしい。しかしいずれも設置の手間とコストが増えるのはやむを得まい。

スギやヒノキの皮を剥がれる被害には、幹にテープを巻くなどの方法が取られるが、完全には防げないようだ。結局、間伐を施して林内の見通しをよくし、人間の気配を増やすことで、動物の警戒心を高めて寄せつけなくするしかない。

ちなみに獣害が増えたのは、人工林に動物の餌がなくて飢えているからとする声があるが、的外れな主張だ。間伐遅れで林内が暗く下草のない人工林もあるが、逆に広葉樹が入り込み植林木が圧迫されている現場も少なくない。むしろ餌が多くあるから数が増えたと考えるべきだろう。生息数の増加は林業者なら誰もが感じているはずだ。

完全に防ぐのは難しいが、欠かせないのは林業者自身が動物に関する知識を身につけることだ。どんな条件だと動物が人工林を狙うのか、設置した柵を乗り越えるのか。また出会った場合はどう対応をすべきか。十分な知識を持たないと、対策も逆効果になりかねない。間伐材を切り捨てておけば動物が通りにくくなるだろうと思ったら、倒した樹木の枝葉を食べるためにシカが集まってきた例も聞く。

何より動物と真剣に向き合う覚悟が求められている。

PROFILE

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『獣害列島』

獣害は、今や農業被害だけではない。シカやカモシカ、ウサギなどの野生動物は、再造林した苗を食い尽くし、またクマとシカは収穫間近の木々の樹皮を剥いで価値を下落させるなど林業に甚大な被害を出しているのだ。そして森林生態系を破壊し、山村から人を追い出し、都会にまで押し寄せるようになった。なぜ、これほど野生動物が増えたのか、日本の自然はどう変わったのか、この緊急事態に何ができるのか。現場からの声とともに届ける。


FOREST JOURNAL vol.6(2020年冬号)より転載

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