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喫緊の課題である獣害対策に変化の兆し 害獣の行動に着目した新たな駆除方法とは

さまざまな獣害対策が試される中で、新たな駆除方法である「硝酸塩入りの餌の散布」が近年駆除方法として期待されている。しかし、まだまだ抱える課題は多い。喫緊の課題である獣害対策に、現在も多くの研究や試行錯誤が成されている。

メイン画像:奈良県・十津川村の植林地

前編:『植林地の獣害対策が抱える問題とは? 確実な防御策は存在するのか』はコチラ!

新たな駆除方法が登場
2012年度から研究に着手

前回の記事で、なかなか決め手となる山の獣害対策はないと記したが、近年期待されている新たな駆除方法を紹介しよう。それは植えた苗や成木を防護柵で囲んだりテープを巻いたりして物理的に樹木を守るのではなく、害獣(主にシカ)の生息数を減らすことで被害を減らそうという、ある意味積極的な方法だ。
 
だが、広大な奥山で駆除活動を行うのは難しい。ハンターの減少や高齢化で山中を広く歩いて銃猟をする少なくなってきた。また罠を仕掛けても頻繁に見回りができない。仮に罠に1頭がかかっても長く放置してしまうことになる。そこで静岡県農林技術研究所森林・林業研究センターが研究したのが、硝酸塩入りの餌の散布である。
 
これは害獣が反すう動物であることに注目した方法だ。反すう動物は、食べた草などの食物をいったん胃に飲み込んだ後に幾度も口の中に戻し、かみ直す動作を繰り返す。それで砕いた植物繊維や細胞を胃内に生息する微生物に分解させ、それを栄養として吸収している。一般にはウシやウマ、さらにヤギ、ヒツジなどが知られているが、シカやカモシカもその仲間だ。
 
こうした動物は硝酸塩を摂取すると、体内で硝酸イオンとなるが、それを微生物が亜硝酸イオンに還元する。この亜硝酸イオンは、血中の赤血球にあるヘモグロビンを酸素運搬能力のないメトヘモグロビンに変換する働きがあるのだ。すると動物は酸素欠乏症に陥ってしまうから死に至るのである。



そこで硝酸塩入りの餌の散布し、シカに食べさせることができれば、シカはやがて息絶えるだろうというわけだ。硝酸塩は自然界にも存在する物質で、それを散布しても生態系への影響は少ない。
 
この現象は、ウシを放牧した際に地下水に含まれる硝酸塩を多く吸収していた草などを食べてしまった場合に、ウシにふらつきや起立不能などの症状が出たり、最悪死ぬ被害が出ることで、畜産関係者の間では広く知られている。同センターは、同じ反すう動物のシカでも同様の現象が起きるはずと、2012年度から研究に着手した。
 
実験では、まず通常の餌でシカを餌付けした後、硝酸塩入りの餌を与えたところ、硝酸塩の濃度によって同様の効果が出ることを確認した。死に至らなくても、捕獲が容易になったり、シカの採食活動を抑えることができるだろう。
 
しかも人的な労力や駆除のコストを大きく抑えることができる。さらに銃を扱うことの危険性もなくなるし、罠による錯誤捕獲(害獣以外の野生動物が罠にかかること)もなくせるだろう。
 

新たな駆除方法が抱える課題
対応策とともに真摯な対応を

ただ問題は法律だ。鳥獣保護法の駆除個体の「放置の禁止」に抵触する疑いがあるほか、家畜にも影響を及ぼすおそれもなしとは言えないから「危険猟法」に該当するとされるのだ。そこで現在は「環境大臣の許可」において、学術研究目的であること、致死個体を回収し適切に処理すること、捕獲対象以外の鳥獣や周辺環境への配慮などを条件に試行し、法に抵触しない使用法などの研究が行われている。
 
今後は硝酸塩入り餌の扱いと法律の運用をいかにするかも研究する必要がある。また課題としては、硝酸塩入りの餌をシカが食べやすくする方法も課題だという。
 
なお世間では、毒殺するかのようなイメージで捉え「残酷だ」という声もある。それに対する説明も必要になってくるかもしれない。
 
すぐに実行に移せるわけではないが、可能になれば手間とコストは著しく軽減されるはずだ。なお対象はシカとカモシカであって、人間はもちろん、反すうしないほかの動物には悪影響はない。それでも人工林の獣害は、大きく抑えられるだろう。
 
獣害対策は喫緊の課題だ。そしてさまざまな研究や試行錯誤が成されている。



PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

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