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森のミクロなデザイナー「地衣類」って知ってる? 私たちをそっと支える縁の下の力持ち

ミクロの世界で
森林のデザインに大きく関与する

小見山 地球の奇跡は「土」があることだといわれています。150億年前、何もない宇宙でビックバンが起こり、大爆発と核融合で宇宙に元素が放出され、約46億年前に地球が誕生するわけです。

マグマが地表で岩石になり、微生物と動植物の生態系リサイクルで森林の基盤の土が形成され、涵養で水が元素を運び、私たちの身体を育んでいます。

地衣類という名前の通り、この生物がミクロの世界で森林のデザインに大きく関与したのではないかと、私はアートの視点から想像するのです。

 
上田 地衣類は、まず一次遷移において、森林が生まれる前の裸地で土壌を形成します。

この土壌によって、先駆植物や先駆樹種、極相樹種が成長し、森林になります。この森林で、地衣類は樹木の樹皮(図7)・葉・岩石(図8)・土壌等に生息しています。

こうして地衣類は、他の生物があまり利用しない場所に着生することで、森林生態系全体の生物多様性に貢献していると考えられます。例えば、針葉樹によく着生する地衣類や枯死した樹木を好む地衣類など、樹木の状態によってニッチが異なることが観察されています。


図7=左:樹皮に着生する固着地衣
(屋久島町 / 2021年12月撮影)
図8=右:岩石の隙間に着生する樹状地衣
(京都市左京区 / 2020年12月撮影)

そして、地衣類は、地衣類同士やコケ植物等と樹皮上で競争し、生息地を獲得していると見られる様子も確認されています。成長してぶつかった境界でせめぎ合うだけではなく、もともと生息していた地衣類の上を覆うように、別の地衣類が成長していることもあります。

さらに、森林には、地衣類を利用する生物も存在します。例えば、トナカイやカタツムリは地衣類を食べ物として利用します。また、樹皮に生息する地衣類をまねて、地衣類模様をつくって擬態する生物(コマダラウスバカゲロウ、コヤガ、ヤモリなど)もいます。

このように、地衣類は、まず森林の基となる土壌を形成した後、様々な生物との関わりを持ちながら森林生態系の一部を構成しています。この点から、「地衣類はミクロの世界から森林をデザインしている」といっても過言ではないと思います。

 

大好きな地衣類は「アカミゴケ」
赤い帽子をかぶったミミちゃん

小見山 以前、好きな地衣類は?とお聞きしたとき、「アカミゴケ」といわれましたね。このアカミゴケについて教えて下さい。

 
上田 アカミゴケは、マッチ棒の先端のように鮮やかな「赤色の子器(子実体/生殖器)を持つ」地衣類です。

小見山さんに創っていただいた楽曲『私をみつけて』では、赤い帽子(子器)をかぶった”ミミちゃん”が登場します。実は、私はまだ本物のミミちゃんを見つけられていないため、代わりにミミちゃんの仲間の写真(図9)をご覧ください。


図9:樹皮に着生するコアカミゴケ(写真中央)
(京都市左京区 / 2020年12月撮影)

そして、アカミゴケはハナゴケ科ハナゴケ属に分類されています。このハナゴケ属は、トナカイゴケ(ハナゴケ類)も含まれています。ミミちゃんは、トナカイに食べられてしまうトナカイゴケの「親戚」のような関係です。

普段なかなか会えないため、私にとってアカミゴケの仲間は、見つけると一段と嬉しくなる魅力的な地衣類です。


地衣類ミミちゃんのおともだち
イラスト作:おおた かな


夢でみた地衣類ミミちゃん
イラスト作:つきのせ がらんす

小見山 私は音楽家でもあるので、アカミゴケが主役の『私をみつけて』という楽曲を創りました。少しでも多くに人に地衣類が伝わればとYouTubeを観て頂ければと思います。上田さんに歌ってもらっています。

●地衣類ソング/Lichen Song 『私を見つけて』”Find me Micro”



 

身近なことから地球環境について
考えられる社会をつくりたい

小見山 上田さんにとって地衣類を研究する面白さとは?

 
上田 日本では、地衣類を専門とする研究者は少なく、限られた土地でのみ調査が行われており、森林内の網羅的な調査は他の地域と比べてあまり行われていません。このことは、私が研究を続ける原動力になっています。

今まで見たことのない地衣類を見つけたとき、雨で色鮮やかになった地衣類を見たとき、隙間なく様々な地衣類が生きているのを見たとき、反対に何もない場所にひっそりと暮らす地衣類を見たとき、私は感動し、ますます地衣類の虜になっています。

また、研究者が少ないのは、地衣類の魅力があまり知らていないことが原因の一つだと思っています。まだ一学生ですが、高校生の頃から魅了された私だからこそ見つけられる、地衣類の「学術的な」面白さを世に発信したいと日々思っています。

 
小見山 今後やってみたいことは?

 
上田 研究活動とともに、地衣類の存在を広く伝えていきたいです。私は高校、大学と学ぶ中で、多くの人が地衣類を知らないということに衝撃を受けました。今後の地衣学において、さらにDNAデータ等の様々な情報を蓄積する必要があるため、地衣類を保全することは重要です。

しかし、地衣類は「汚れ」と勘違いされることが多く、除去される恐れがあります。そのため、できるだけ早く地衣類の生態を私自身が理解し、知識を伝えていく必要があると考えています。

私は将来的に、地衣類のように普段あまり把握していない生物を知る機会を設け、誰でも身近なことから地球環境について考えられる社会をつくりたいと思っています。



 

地衣類は私たちの生活を
そっと支えてくれている

小見山 科学は、教室で目立たなく声が小さくて忘れられがちな児童の声を拾うように、広大な生態系の一部を見つめる宇宙的な眼が必要だと思います。これは音楽が空気の振動で、一番弱い人や見つけにくい場所にメッセージを運ぶのと同義だと思います。

上田さんが地衣類というあまり知られていない分野に踏み込んだことを応援したいです。最後にみなさんにメッセージをお願いいたします。 

 
上田 今回、地衣類を取り上げていただき、ありがとうございます。地衣類は、前述のように高校で少しだけ紹介される生物です。そして、普段、気に留めなくても何ら問題なく生活できるマイナーな生物です。

しかし、そのようなスポットライトの当たらない生物も、実は私たちの近くで一緒に暮らしています。

地球の環境問題の解決が叫ばれている今日だからこそ、今一度、身の回りの生物に着目してみませんか? 彼らもヒトと同じく地球環境の一部で、もしかしたら私たちの生活をそっと支えてくれているのかもしれません。

地衣類は、一年中観察できる生物です。また、前述のように様々な場所に生息するため、地衣類を観察しようという気持ちさえあれば、誰でも気軽に出会うことができます。ふとしたときに、この記事を思い出して、「縁の下の力持ち」を探してもらえたら嬉しいです。

 
小見山 ありがとうございました。     


文/小見山將昭

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