国産建築用材3割増へ 新しい森林・林業基本計画が始動
2026/07/02
政府は6月5日、新しい森林・林業基本計画を閣議決定した。計画では国産材の利用拡大と幅広い需要創出、供給力強化に向けた林業従事者の所得向上や採算性の改善を重視している。林業・木材産業の成長と持続性の確立を目指す新たな政策指針を解説する。
画像:©Alex Vog/Shutterstock.com
1.都市の木造化と輸出拡大で 建築用材3割増を目指す
2.林業適地への集約化と デジタル技術の実装を推進
3.情報共有と合理的な価格形成で 強い供給網を築く
4.新たな危機への対応と 大臣が語る百年の礎への思い
都市の木造化と輸出拡大で
建築用材3割増を目指す

【新たな森林・林業基本計画(出典 林野庁)】
新たな森林・林業基本計画では、多様な木材需要の開拓に向けて国産材の利用拡大と幅広い需要創出を成長の柱に据えている。具体的な数値目標として、2030年までに国産建築用材等などの利用量を2300万立方メートルに拡大することを目指す方針が示された。これは2024年比で約3割の増加に相当し、達成に向けた多角的なアプローチが盛り込まれている。
特に成長分野として期待されるのが、これまで木材利用が低位にとどまっていた店舗やオフィスなどの非住宅分野や中高層建築物の木造化および木質化である。環境に配慮した企業経営を求める社会的気運やウェルビーイングへの関心の高まりを追い風とし、建築物のライフサイクルカーボン評価などを活用して国産材利用による環境貢献の効果を見える化していく。これにより、民間企業による木材利用の動きを力強く後押しする考えである。
さらに、国内の新築住宅市場が縮小傾向にあることを見据え、海外市場の需要獲得にも注力する。米国における主流な建築法であるツーバイフォー工法に必要な木材など、海外需要の高い木材製品の戦略的な輸出拡大を推進する。また、従来の原木中心の輸出から付加価値の高い木材製品の輸出への転換を図るため、輸出先国の規格やニーズに対応した木材加工施設の整備やブランド化を進める。このほか、大径材や広葉樹材を活用した内装材等の需要創出や、余すことのない木材利用に向けた改質リグニンなどの木質系新素材の開発と社会実装を加速させ、国産材のマーケット自体を大きく広げていく方針である。
林業適地への集約化と
デジタル技術の実装を推進

【新たな森林・林業基本計画(出典 林野庁)】
林業の生産性向上と持続可能な産業構造の確立に向け、新たな計画では的確なゾーニングと森林の集積・集約化の加速を打ち出している。全国の人工林の3分の2を自然的・社会的条件が良い林業適地として区分し、この区域において路網整備や経営体育成などの施策を重点化することで、確実な再造林を推進する方針である。林業経営体への民有林人工林の集積・集約化については、2030年までに210万ヘクタールへと拡大させる方針を掲げており、これは2023年比で3割増の水準となる。
この集積・集約化を効率的に進めるための手段として、デジタル技術の全面的な活用が明記された。人工知能や情報通信技術、リモートセンシング技術を駆使し、森林境界の明確化や森林資源情報の透明化を効率的に推進する。さらに、個々の細かな森林境界にとらわれずに一団のまとまりとして管理を行う外縁確定型の普及や、改正された森林経営管理法の最大限の活用を通じて、小規模・分散所有や所有者不明といった構造的課題の克服を目指す。

新たな森林・林業基本計画(出典 林野庁)
また、担い手不足や高い労働災害発生率という深刻な現状を踏まえ、スマート林業技術の現場実装による労働環境の劇的な改善を図る。ドローンによる造林地の見回りや、危険な斜面での作業を安全にする遠隔操作・自動運転機械などの林業機械の実装を進め、安全の確保と生産性の向上を同時に達成する作業システムとして構築する。熟練者の技能検定などを活用した能力評価を導入し、多様なキャリア形成に対応した人材育成を行うことで、林業従事者の所得向上と雇用の定着を確かなものにしていく方針だ。
情報共有と合理的な価格形成で
強い供給網を築く

新たな森林・林業基本計画(出典 林野庁)
木材需要の拡大を確実に林業の成長へと結びつけるため、新たな基本計画では強靱な国産材サプライチェーンの構築を重要施策として掲げている。過去のウッドショックによる輸入材の調達リスク顕在化を踏まえ、建築用材の自給率が過半となった現在の状況を活かし、国産材主導の安定的かつ効率的な流通体制へ移行することが急務となっている。
強靱なサプライチェーンの核となるのは、川上から川中、川下までの関係者が一体となった情報の共有と相互理解である。需要側が求める合法性や持続可能性が担保された木材の取引を推進するため、クリーンウッド法に基づく情報伝達等を徹底する。同時に、再造林にかかるコスト構造や木材の需給動向、森林経営計画に基づく施業状況などの情報を関係者間で透明性高く共有し、これまで立木価格の低迷につながっていた旧来の商慣習を見直す。これにより、適切な利益が川上まで還元される合理的な価格形成の促進を図る。
流通の効率化に向けては、情報通信技術を活用した原木流通コーディネート機能を大幅に強化する。需要に応じた原木の直送体制や、中間土場を活用した大ロットのとりまとめ、流通のデジタル化を進め、無駄のない物流ネットワークを構築する。川中の木材加工流通施設においては、品質性能の確かなJAS製材品などの安定供給に向けた施設整備や工場間連携、製品の一時保管を行うストック機能の強化を戦略的に支援し、急激な需給変動にも耐えうる強靱な供給体制を整備していく。
新たな危機への対応と
大臣が語る百年の礎への思い

【新たな森林・林業基本計画に掲げるKPI①(赤字は2030年目標) 出典 林野庁】
新たな計画では、近年の気候変動や環境変化に伴う新たな危機への対応を強化し、多面的機能を発揮する多様で健全な森林づくりを通じて国民の安全・安心を支えることを前面に打ち出した。豪雨の増加による複合的な山地災害のリスクに対し、危険度の高い山地災害危険地区の治山対策完了率を現在の54%から2030年までに64%へ引き上げる。また、近年頻発している大規模な林野火災を防ぐため、延焼しにくい森林づくりや火災予防の広報を強化する。
深刻化するクマによる人身被害に対しては、クマ被害対策パッケージに基づき、奥山の針広混交林化や緩衝帯としての里山林の整備など、生息環境の保全と整備により、すみ分けを図る。鳥獣害や病虫害対策としては、ドローンによるシカの生息状況調査を活用した効率的な捕獲や、効率的な薬剤散布による松くい虫等の害虫防除を推進する。さらに、国民病ともされる花粉症への対策として、木材需要の拡大と連動させながら、花粉の少ないスギ苗木の生産割合を現在の6割から8割へと引き上げ、花粉の少ない森林への転換を加速させる。
閣議決定に際し、鈴木憲和農林水産大臣は談話を発表し、国土の約7割を森林が占める我が国において、先人から受け継いだ豊かな資源を適切に循環利用し、木のあふれる街づくりを進めることで日本列島全体を強く豊かにしていく決意を表明した。また、基本計画に初めて「百年つづく『森の国・木の街』へ」という副題を設けたことに触れ、森林・林業・木材産業の次の百年の礎を築くため、国や自治体、事業者だけでなく、森林の恩恵を受ける全ての国民の理解と協力が不可欠であると呼びかけた。

新たな森林・林業基本計画に掲げるKPI②(赤字は20230年目標) 出典 林野庁
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取材・文:フォレストジャーナル編集部














