環境省、クマの個体数を全国調査 6月下旬から東北地方で実施
2026/05/28
環境省は、ツキノワグマの出没対策をめぐり全国23ヶ所の生息地で国が主導する個体数調査に取り組む。手始めとして、被害が深刻な東北地方で6月下旬から調査を始める。山林で作業を行う林業関係者の安全確保に向けた大きな一歩となる。
1.県境を越える移動に対応する 広域的な統一調査
2.手始めとして 東北の6ヶ所で調査を実施
3.山林の現場作業員の 安全を守るための行動指針
4.政府と自治体が連携する 体制構築と今後の展望
県境を越える移動に対応する
広域的な統一調査

東北6県におけるクマの捕獲状況(出典 環境省)
ツキノワグマの出没が相次ぎ社会的な問題となる中、石原宏高環境相は5月19日の閣議後記者会見で、クマの生息地を対象とした新たな個体数調査の概要を明らかにした。
これまでクマの個体数調査をはじめとする生息状況の把握は、各都道府県が単独で実施してきた経緯がある。しかし、それぞれの自治体で調査の手法や実施する時期が異なっていたため、地域間でのデータの比較が困難であった。
さらに、クマは行政区画に関係なく県境を越えて広範囲に移動する習性を持っていることから、従来の県単位の枠組みでは個体群全体の正確な動向をつかむことが難しく、推計値の精度に課題が指摘されていた。
こうした山林現場を取り巻く課題を解消するため、今回は国が前面に立って主導し、統一的な手法を用いて広域調査を行うこととなった。行政の壁を越えた精度の高いデータが整備されることは、山林内での造林や伐採、集材作業に従事する林業従事者の命を守るための安全管理計画を策定する上で、重要な判断材料となる。
手始めとして
東北の6ヶ所で調査を実施
環境省の発表によると、今回の広域調査は主に2種類の異なる役割を持つカメラを組み合わせて山中に設置する手法で実施される。
一つ目の手法は、エサなどの誘引物を用いてクマを意図的にカメラの前へと引き寄せて撮影するものである。ツキノワグマには胸部に個体ごとの特徴となる白い三日月状の模様があり、この模様の違いを映像から識別することによって、どの個体がどこに生息しているかを明確に特定することができる。
二つ目の手法は、誘引物を一切使用せず、自然な状態で山林内を移動しカメラの前を通過するクマの姿をありのままに撮影するものである。これら性質の異なる2つの撮影アプローチを融合させることにより、特定の場所に偏らない客観的な生息動向のデータが集まり、調査の精度が飛躍的に高まると環境省では説明している。
クマの生息調査は全国23の生息地で実施する方針で、手始めとして東北の6つの生息地から調査を始める。そして、遅くとも2029年度までにクマが生息するすべての地域で調査を終える方針だ。
実際のスケジュールとしては、山林内での作業が盛んになる6月下旬から東北各地の山中にカメラの配置を始め、活動が活発化する秋ごろまで継続して設置を行う 。カメラの撤去後は速やかに回収された膨大な映像データの解析作業に移り、今年度中を目標に東北地方の地域別および県ごとの詳細な推定個体数を算出して公表する。
山林の現場作業員の
安全を守るための行動指針

2025年度の全国のクマ被害件数(出典 環境省)
この国主導の調査が進められる一方で、山林の最前線で働く森林組合や民間林業事業者、および自治体の林業担当者は、日々の安全確保に向けて具体的な対策を徹底しなければならない。政府が開催したクマ被害対策の関係閣僚会議において共有された情報や環境省の方針に基づき、現場では人間とクマの不意の遭遇を避けるための徹底した行動が求められている。
石原環境相が記者会見で呼びかけた重要な対策として、山林に入る前の徹底した事前確認が挙げられる。作業員は自治体が発信する最新の出没情報や目撃地点を事前に必ず把握し、危険性の高いエリアへの入山を控えるとともに、細心の注意を払って作業計画を立てる必要がある。
また、山中での単独行動はクマに襲われた際のリスクを著しく高めるため、常に複数人の班体制で行動することが基本となる。
クマは音に対して警戒心を持つため、山林内ではラジオの音を鳴らし続けたり、クマ鈴を作業着に装着したりして、人間の存在を遠くからでもクマに認識させることが不意の衝突を防ぐ具体策となる。
特に視界が遮られる深い茂みや、クマの形跡である足跡や爪痕、糞などを発見した場合は、決して興味本位で近づくことなく、ただちに作業を中断して安全な場所へと退避し、組合や自治体へ情報を共有する防犯意識の徹底が欠かせない。
政府と自治体が連携する
体制構築と今後の展望

環境省と警察の取り組み(出典 環境省)
政府は5月19日のクマ被害対策関係閣僚会議で、国民の安全安心の確保を最優先に掲げ、迅速かつ確実に出没対策を推進していく方針を確認した。
環境省だけでなく、各省庁がそれぞれの専門分野を生かして連携を密にしており、例えば文部科学省では、通学路での安全を守るために児童や生徒に向けて登下校時の注意点を分かりやすくまとめた啓発用アニメーションの作成を進めていると松本洋平文科相が報告している。
地方自治体と一丸となって全力で対策を進めたいと語る石原環境相の言葉通り、現場への具体的な支援も動き出している。環境省は、クマの春季管理や自治体における専門人材の育成、さらに被害防止に向けた捕獲作業を担う政府公認の「ガバメントハンター」を適切に山林地帯へ配置するための各種支援制度を展開している。
こうした国と地方が一体となった取り組みは、チェンソーや刈払機を扱う現場作業員だけでなく、高性能林業機械を製造する建機メーカーや、防護服をはじめとする林業アイテムを開発するメーカーにとっても、より安全な現場環境に即した資機材の開発を進める上での指針となる。
林業に関わる全ての関連事業者は、今年度内に示される精緻な個体数推計の動向を踏まえて、山林の安全な管理と事業継続のためにその知見を生かしていくことが期待される。
DATA
取材・文/フォレストジャーナル編集部














