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【フランス林業最前線②】 ソローニュの森 ――林業と狩猟で生態系を守り継ぐ――

EUで3番目の森林面積を持つフランス。そんなフランス林業の現地ルポをお届けするのは、フランス林業を日本で初めて紹介した著書『広葉樹の国フランス』などを執筆する門脇仁氏。今回はソローニュ地方についてレポートする。

前回記事▶【フランス林業最前線】モルヴァンの森ー小規模分散の強みを活かした私有林経営ー

<目次>
1.多目的に森を活かす伝統
2.施業の徹底で森のレジリエンスを高める
3.林縁を活かした獣害対策

 

多目的に
森を活かす伝統

前回は小規模分散の森をご紹介した。今回は一転して、大面積の森を訪ねる。フランスを南から西へと流れるロワール川の流域にあり、古くから狩猟の聖地として知られるソローニュ地方である。

ジャンヌ・ダルクの騎馬像が立つオルレアン駅からTER(地域列車)に乗ると、ラ・フェルテ=サン=トバン駅に着く。訪問先のマリ=ピエール・ベナールさんが車で出迎えてくれた。

オーク、マツ、シラカバ、クリなどの樹林、沼や池の多い平地、テンやイノシシの巣が見られる草地の脇を走り抜ける。そこはすでに、面積400haを超す林地「レ・デルレ」の敷地内だ。

列状植栽されたヨーロッパアカマツ

ここの気候は夏に乾燥し、冬に湿気をおびやすい。樹種ではマツが乾燥に強く、オークは行き届いた更新で安定的に生産され、シラカバは痩せた土壌にもよく適応、そして沼沢地向きのヤナギやハンノキがある。こうした植生とのつながりで、アカジカ、ノロジカ、テン、キツネ、キジ、ガンなどの野生動物が生息している。山主たちはこれをジビエとして自家消費したり、販売したりする一方、外部の狩猟家たちに狩猟権の貸与も行っている。

さらに香料樹脂、カバノキ液(※1)、ハチミツ、シナノキのハーブティー、ヘーゼルナッツやクワの実など、林産物の利用も幅広く手掛ける。これに景観や森林浴も含めて、生態系の恩恵をポリフォニックに調和させている。

こうして30分も走ると、車は樹齢200年の菩提樹がたたずむ屋敷の前に着いた。

玄関先のボダイジュ(左)と敷地内のオーク(右)。どちらも樹齢200年強。

 

施業の徹底で
森のレジリエンスを高める

夫のフランシューさんと妻のベナールさん。日本の林業にも強い関心とリスペクトをもっている。

「私たちの森は、200年前からほとんど変わっていないんです」

クマやシカの剥製、それに暖炉のある客間で、ベナールさんが言う。

午前中の作業から昼食のために引き上げて来たご主人のユベール・ド・フランシューさんも会話に加わる。彼らの言葉は、もちろん施業管理と生態系維持のことを指している。貴族の家系であり、今も地元の名士であるこの一家は、林業と狩猟で森を守る使命を受け継いでいる。近年になってこの地に入ってきた巨大産業資本家たちとは、そこで一線を画す。

かつては経験や先人の訓えに頼っていたが、今では生物多様性を守るための科学的ガイドラインも用いる。行政が土地ごとに捕獲数を割り当てる「狩猟計画(※2)」が策定され、ノロジカやイノシシなどが植生に与える影響をもとにして、狩猟による個体数の調整を図っている。

森林管理の課題やリスクは、もちろん時代ごとに変わる。さしあたり現在は、気候変動にともなう山火事、クリの病虫害、多様な林種転換、観光と森林管理の両立などだ。ベナールさんは、施業を徹底することで、さまざまなリスクに対する森の耐性も強化されて行くと確信し、実践している。
 

林縁を活かした
獣害対策

林道や作業道はカート(UTV)で移動する。

午後はベナールさんのカートに乗り換え、植林の苗畑や野生動物の生息地を見て回った。

見晴らし台のような櫓(やぐら)があちこちにある。ここから樹林や草地や野生動物たちの様子がモニタリングされている。以前は140基ほどあったが、維持管理の合理化のために減らした結果、今はそのうちの39基が残る。

モニタリング用の櫓。個体数調査や誤射防止の用途がある。

ソローニュの森では近年、狩猟林を囲うフェンスが問題になっている(※3)。だが彼らの敷地では、林分全体を囲い込むということはしない。植林用の苗畑にだけは電気柵をめぐらすが、まずはそこに動物たちを近づけないためのバッファーゾーンとして、隣接地に滋味の豊かな草地を設けている。

これは森の林縁(リジエール)を重視するフランス林業の考え方を応用している。林縁は植物の成長の最も盛んなところで、同時に森が草原や人里へと切り替わる移行帯(エコトーン)でもある。移行帯での行動パターンを野生動物たちに習慣化させることで、獣害も緩和される。林業と狩猟を両立させる最大要素のひとつだ。

こうした最新の取り組みも含め、長い時間をかけて編成されてきたソローニュの森。至るところで生態系保全の知恵に出会い、日本への示唆も得た取材だった。


※1 カバノキから採取される液体。飲用や化粧品用として使われる。
※2 Plan de chasseと呼ばれる。
※3 動物個体群の分断や過密化を招くため、ジャン=バティスト・フォレの著書『Les Nouveaux seigneurs』(2024年)で取り上げられ、議論を呼んだ。

PROFILE

門脇 仁


森林生態系と林業の日仏比較研究でパリ大学院を修了。政府開発援助専門誌などを経て独立。フランス林業を日本で初めて紹介した著書『広葉樹の国フランス』、北米のセコイア原生林を扱った訳書『樹盗』など、計16冊を執筆。講演活動や大学講義も行っている。
メールアドレス:hitoshi.kadowaki3@gmail.com

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