【副業×林業】小規模林業を支える小型運搬機「山猫」とは? スキマ時間を利用する新しい林業
2020/10/16
林業界に新しい風を吹き込もうと、様々な取り組みを行う小友木材店代表の小友康広さん。家業である木材店の代表を務める傍ら、都内のIT会社に勤務する小友さんはITの発想を林業にも取り入れ次々と事業を起こしている。
スキマ時間を利用した働き方で
林業をもっと身近に
岩手・花巻市の小友木材店が開発中の小型木材運搬機「山猫」。これは将来、副業で行う小規模な林業の必須アイテムになるかもしれない。
1905年創業の小友木材店。現在では数少ない広葉樹林業を行う林業会社でもある。
作業現場の様子。このように広い作業道がなくても「山猫」を使えば搬出が可能だ。
性能は、4mの杉丸太1本を山から曳き出してこれることを目標としている。速度は人の歩行速度とほぼ一緒で、人がハンドルに手を添えて進路を誘導する。
作業道を開削しないでもよいから環境に優しく、小規模な物資の運搬なら十分対応できる。動力は充電式電池だ。これで、狙いを定めた銘木を搬出するのもよし、あるいは薪にするような小径木を積んで運ぶもよし。
狩猟で仕留めた山中のシカやイノシシなどの獲物を出すこともできるし、逆に山小屋やキャンプ場に荷物を運び上げるにも重宝するだろう。あるいは道をまだ入れていない山の建設現場に、資材を運ぶ用途もあるかもしれない。
「一般的に、フォワーダを購入しようとすると、最低でも2000万円ぐらいかかり、燃料費も馬鹿にならない。しかも作業道を入れる必要がある。それでは大規模林業でないと使えないと思ったのがきっかけです。小規模な現場に向いた運搬方法を考えて、最初はドローンで集材できないかと思いました」(小友康広・小友木材店社長)。
だが、ドローンの研究会に入って議論しているうちに「飛ばなくてもいいんじゃないか」ということになり、山の斜面を走行するマシンの開発を思いついたのだという。地元では、昔から馬による木材の運搬が行われてきたが、それと同じことを機械で行うのだ。
小型運搬機「山猫」。ハンドルレバーを握るとクローラーが回り、離せば止まる簡単操作。操作に気を取られることなく搬出作業ができる。
開発で組んだのは、地元にある除雪機や草刈り機メーカーの和同産業。同社の除雪機を母機として開発を始めた。
いくつかの問題を乗り越えて、5回の改造を経てプロトタイプができあがった。名前は宮沢賢治の童話から取って「山猫」と名付けた。
共同開発を行う和同産業との意見交換。
「今後、全国の小規模林業家の山を訪ねて実験を重ね、実用化をめざします。さまざまな条件下で利用して、どんな問題が発生するか、どんな使い道があるのかも意見交換させてもらえたら幸いです」(小友さん)。
ただ小友木材店としては、「山猫」を積極的に販売していくつもりはないという。小規模事業向きゆえに買い取りよりレンタルで展開していく方が向いていると考えている。
あるいはウーバーイーツのように空き時間を使って簡単に集材手伝いをするアルバイト感覚の林業にも使えるだろう。まさに「林業を副業に」するためのアイテムなのだ。
小友社長は、地元で3代続く林業会社を経営する一方で、東京のIT企業の取締役も務めている。「ITは課題ベースで解決法を考え、その方法は業界の壁を超えて展開します。『山猫』も林業用に思いついた小型運搬機ですが、様々な現場で使ってもらい、働き方の幅を広げてくれたら」。
様々な木材加工商品を手掛ける小友木材店。自社がプロデュースする花巻おもちゃ美術館の内装や家財も制作している。
PROFILE
小友康広さん
岩手県花巻市花城町3-50
TEL:0198-23-4331
写真:松尾夏樹(大川直人写真事務所)
文:田中淳夫
FOREST JOURNAL vol.5(2020年秋号)より転載