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LPWAから衛星通信まで!林業を支える通信技術の最新動向

「携帯が通じず安否が分からない……」。いまだ携帯圏外が多い林業の施業現場。そうした現状を見直そうと今、さまざまな取り組みが進められている。緊急時の連絡はもちろん、生産性向上や重機の遠隔化施業など、次世代林業推進に向けて期待が懸かる林内通信ツールの今とは?

<目次>
1.森林通信の4つの方法
LPWA 迅速救助へ消防機関と連携
デジタル簡易無線 音声通話+データ通信も
Bluetooth(R) 接続のインカム
衛星通信
2.生産性向上、無人化施業……林内通信ツールのこれから
Check! 通信技術の用語集

 

森林通信の4つの方法

林内通信には事業者によってさまざまなツールが提供されているが、それぞれ通信可能距離や得意とする機能が違い、普及や実証の進度も異なっている。まずはそれぞれの特色を整理してみよう。

①LPWA 迅速救助へ消防機関と連携

伝送できるデータ容量は少ないものの、省電力で長距離通信を得意とするのが「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称される無線規格。そのLPWAの中でも制度上、許される最大出力である920MHz/250mW規格の電波「GEO-WAVE」を利用し、山間部の遠距離通信を可能にしたのがフォレストシーが開発したシステムだ。

愛媛県久万高原町でのGEO-WAVE活用例

現場の作業員は「GEO-WAVE」に対応した携帯型子機「GeoChat」と、専用アプリをインストールしたスマホをそれぞれ一台ずつ携行。「GeoChat」とスマホをBluetooth(R)接続することで、作業員同士でアプリによるチャットのやり取りや位置情報、SOS信号などが送受信できる。

さらに基地局(親機)を携帯圏内の森林組合事務所などに設置し、中継機を施業現場周辺の見通しの良い場所などに配置することで、携帯圏外の作業員が「GeoChat」から発した情報をクラウドサービスに接続でき、作業員同士での通信と同様に、事務所職員など遠く離れた相手ともチャット、位置情報、SOS信号などのやり取りが可能となる。

フォレストシー代表取締役の時田義明さんは「GEO-WAVEでは音声通話や動画、webページ閲覧はできません。しかしGeoChatから定期的に発信される位置情報を関係者が常に把握できるため、確実な安全管理につながります。また『これから雨が降る』『今現場に着いた』などのやり取りもチャット画面から事務所職員や家族とできるため、森林組合や中・大規模林業事業体はもちろんですが、小規模な自伐型林業などに多いひとり親方にこそ使ってほしいシステムです」と話す。

林業が盛んな愛媛県久万高原町では「GEO-WAVE」を活用する町ぐるみの通信インフラ構築事業に2019年度から着手。親機1台、中継機20台を配置し、約600㎢の町内のほぼ全域をカバーする体制を整えている(上図)。同町では「GeoChat」による林内からのSOS信号を119番通報と同様に扱う体制を消防署と連携して構築し、位置情報データをもとに万が一の事故の際の救助時間短縮につなげている点が特徴だ。

②デジタル簡易無線 音声通話+データ通信も

デジタル簡易無線の高出力電波を使って、音声通話のほか、テキストや位置情報などのデータ通信ができる林業専用のICTプラットフォーム「Soko-co FOREST」の利用も広がっている。

BREAKTHROUGHが開発したこのシステムでは、専用アプリをインストールしたスマホまたはタブレット端末と、JVCケンウッド製デジタル簡易無線トランシーバーをBluetooth(R)接続しデータ通信を行うことで、携帯圏外でもチャットメッセージのやり取りや位置情報共有などを作業者同士で行えるようにした。さらに誰か一人でも携帯圏内に復帰すると、受信済みの各作業員の位置情報データなどがサーバーを通して会社や事務所の端末に共有される仕組みだ。

簡易無線トランシーバーの通信距離は森林内では約3キロ。それ以上に離れる場合は専用中継機を設置することで拡大できる。大分県内での実証実験では、施業現場から約1キロ離れた障害物の無い高台に車載の中継機を置くことで、そこから約7.5キロ離れた事務所とクリアな音質で通話できたという。 

同社社長の北原健太郎さんは「採用したデジタル簡易無線トランシーバーは送信出力が5Wと大きく、周波数も350MHz帯、400MHz帯と低いので尾根や谷に遮蔽されにくく、遠くまで飛ばせる特性があります。無線機は古い技術というイメージもありますが、スマホのアプリと組み合わせることで最新の技術になりました」と話す。

専用アプリではオフライン地図上での作業者同士の位置情報や林内境界表示のほか、かかり木や枯損木、路肩崩壊といった30種類以上の情報をアイコン表示できる。同社は丸太の画像検知アプリ「Log-co」もリリースしており「Soko-co FOREST」と組み合わせることで、位置情報を含めた造材現場の『見える化』が実現し、翌日の運搬用トラックの配車計画などにも役立ちます」と話す。

③Bluetooth(R) 接続のインカム
主に遠距離通信に利用されるLPWAやデジタル簡易無線に対し、重機オペレーターとチェーンソーマン、特殊伐採におけるクライマーとグラウンドワーカーといった比較的、近距離でのコミュニケーションに役立つのがBluetooth(R)接続のワイヤレスインカムだ。もともと主にバイクツーリング愛好者などの間で使われていたが、林業現場でも近年利用が広がりつつある。

ファナー社製の「BT-COM」は、同社製ヘルメットの左側イヤマフ部分を付け替えるシンプル構造。スマートな装着感で、ツリーワーカーを中心に支持を集めている。携帯電話と同じように同時通話ができ、最大4人までグループ通話が可能だ。地形などによって通信可能距離に差が出るが、フリーハンズでタイムラグなく通話できる点は他の林内通信機器にはない特徴といえそうだ。

④衛星通信
山間部や海上といった携帯圏外エリアでの新たな通信インフラとして近年、注目を集めているのが衛星インターネットサービス「Starlink」を活用するシステムだ。土場や皆伐地などの開けた場所に、小型の専用アンテナを設置して衛星電波を捕捉。ルーターを介してWi-Fi環境を構築する。高速、低遅延のインターネット環境を構築できるのが最大の特徴だ。

近年、大手を含む通信各社が山間部を含めた携帯圏外エリアでの「Starlink」によるインターネットサービス事業に参入しており、林業分野での活用も期待されている。また前述の「Soko-co FOREST」と「Starlink」を接続する実証実験も複数の現場で実施し、成功しているという。これによりどんな奥山であっても事務所との情報共有が可能となる。

現状では衛星を安定して捕捉するためにはアンテナ設置場所の上空、特に北側の空が開けている必要がある。Wi-Fiエリアの林内への拡大方法やアンテナを安定稼働させるための電源確保などが今後の課題となりそうだ。

生産性向上、無人化施業……
林内通信ツールのこれから

林内通信整備で基本となるのが作業員の安心・安全の確保だ。ただLPWAやデジタル簡易無線の利用は慣れないと現場で戸惑うこともあるという。日本森林技術協会ICT林業推進室の大萱直花さんは「電波を使う機器には、遠くまで電波を飛ばすほど一度に送れるデータ量が少なくなる特性があります。例えばWi-Fiは大容量通信が可能ですが半径数十メートルしかカバーできません。林内通信機器でも遠隔地とのやり取りではチャット風メッセージのやり取りに時間が掛かる場合もあるなど、機器の特性を十分理解することが大切です」と話す。

期待されるもう一つの役割が作業内容の共有による業務効率化や生産性向上への効果だ。位置情報を基にした作業道での重機の離合タイミング確認、日報作成業務の省力化、丸太搬出スケジュールの川下側を含めた共有など、活用シーンは幅広い。大萱さんは「将来的にはICTシステム搭載の遠隔操作式重機への活用も期待されます」と話す。

一方、林内通信整備における費用負担のあり方は地域によってさまざまだ。対象エリアの面積によっては初期費用が数百万円規模に上る場合もあり、ランニングコストや通信事業者によるアフターフォローなどの検討も重要になる。山間部での通信インフラ構築を目的に、補助金活用を含めた自治体との連携事例もあり「林業のICT化推進には自治体と施業現場との縦割り意識解消が必要」との声もある。

林内通信整備の黎明期ともいえる今、現場に最適なツールをどう選ぶか――。今後の動向に引き続き注目したい。

Check! 通信技術の用語集


4G
移動体用の通信規格で、第3.9世代移動通信システム(LTE)と第4世代移動通信システム(LTE-Advanced)の総称。3Gよりも大幅な広帯域化を可能とし、更なる高速化を実現した。

5G
2020年3月に商用サービスの提供が開始された、第5世代移動通信システム。高周波数帯を利用した超広帯域伝送などによる「高速・大容量」の通信が実現できることに加え、「低遅延」「多数接続」の特長がある。

LPWA
Low Power WideAreaの略。低消費電力かつ広域・長距離通信、低コストを特徴とする無線通信システム。

Wi-Fi
無線LANの普及促進を行う業界団体Wi-Fi Allianceから相互接続性などの認証を受けた機器のこと。ケーブルを使わず無線通信(ワイヤレス)でデータをやり取りする仕組みの一つ。

Bluetooth(R)
携帯情報機器などで数メートル程度の距離を接続するのに用いられる近距離無線通信の標準規格の一つ。コンピュータと周辺機器を接続したり、スマートフォンやデジタル家電でデータを送受信するのによく用いられる。

デジタル簡易無線
デジタル通信方式を利用した無線機。主に業務での連絡を目的として使用されている「簡易業務用無線」のひとつ。従来のアナログ通信方式を利用した無線機と比べ、音質は良く、秘話性が高い。無線従事者資格は不要で、免許さえあれば利用可能。

特定小型無線
特定小電力無線局の電波を利用する無線機の一種。一般的に見晴らしの良いワンフロアでの利用が推奨される。他の無線機や周辺機器に影響を与えないほど小さな出力で通信するため、資格や免許なしで利用できる。
 


文:渕上健太
イラスト:ササキシンヤ

FOREST JOURNAL vol.21(2024年秋号)より転載

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