森林計測がここまで進んだ! スマートグラスに計測データ表示、新開発の+AR技術とは?
2022/08/30
森林3次元計測システムOWL(アウル)の計測データをウェアラブル端末を通して林内で手軽に確認できるシステムが新たに開発された。実地デモに参加したベテランユーザーが語る、OWL-ARの利用可能性とは?
OWLがさらに進化!
スマートグラスに立木データを表示
OWLは20m四方の調査地の場合、10分程度で全立木の樹高や胸高直径、位置情報などを計測。専用ソフトで5分程度で解析し、森林資源量などを3D表示できる機能を持つ。
2016年の発売以降、素材生産を行う事業者を中心に導入が拡大。ただ計測・解析した情報を山の中の現場で確認したり、個々の立木と一致させたりするのは難しかった。
新開発のOWL-AR(仮称)はこの課題を乗り越える新しいシステムだ。現実世界にデジタル情報を付加するAR(拡張現実)技術を採用したのだ。
OWL+AR(拡張現実)技術とは?
BluetoothやWi-Fi対応のスマートグラスを着装し、新開発の高精度林内位置検出センサーを携行することで、PCサーバ上の立木情報などを現場で確認できるようになった。スマートグラスを着けて林内に入ると、視界に入っている立木にID番号や胸高直径、樹高が示された電子ラベルが映し出される仕組みだ。
立木を指差して空間上でタップすると、間伐時の選木順位や造材時の採材寸法、林分所有者名といった事前入力の追加情報も表示できる。
視界に入っている立木を指差しすることで、スマートグラス越しに詳細情報が表示される。
スマートグラス越しに見えるキーボードでIDを入力し設定すると、そのIDがついた立木までのルートを表示してくれる。
スマートグラスを通して見ることができる「現実世界」+「計測データ」。目標立木までの参考ルートがピンク色の線で表示される。
材積量をリアルタイムで管理
現場に適した山づくりを目指す
山形県酒田市のスギ人工林でこのほど開かれたデモンストレーションには、OWLのベテランユーザーで、森林経営コンサルティングを手掛ける鳥海フォレストをはじめ、県内の林業事業体などから約40人が参加。アドイン研究所による説明を受けながら新システムを体験した。
これまでに延べ100ha超の人工林計測でOWLを活用し、製品改良にも協力してきた鳥海フォレストの森林施業プランナー 塩谷政人さんは、OWL-ARを体感した印象をこう話す。
「個々の山林所有者に示す施業前の見積もりと、施業後に示す最終精算の内容のずれを正確に把握し、説明できるようになった点が最もありがたい」。
鳥海フォレスト資料「OWL-ARの可能性」より
路網開設時のルート変更や伐倒時の掛かり木処理などで、選木外の木を伐る場面は少なくない。そのたびに所有者の同意を取り付けて計画変更するのは大きな負担になる。OWL-ARでは「伐倒木のID番号を作業者が記録するだけで、施業内容が見積もりと変わった場合でも最終精算に正しく反映させられる」(塩谷さん)。
『森の見える化』で、事前の選木を行わない間伐にも応用可能か。
「スマートグラスを着けて間伐を行い、伐った木のID番号を記録してOWLによる計測・解析データに反映させます。選木作業の省力化につながるほか、伐倒木や残存木の資源量を位置情報と併せて把握できる。
森林所有者にとっては『森林の見える化』、作業者にとっては『仕事の見える化』、プランナーにとっては『在庫の見える化』が実現するでしょう」と塩谷さんは期待する。
間伐初心者向けの使い方も
「OWLの計測・解析機能を活用して、間伐開始前に個々の立木に『S、A、B、C…』などと選木のランク分けをします。スマートグラスを着けて伐倒することで事前の選木結果が現場で分かり、経験が浅くても計画通りに間伐できるようになる。
またOWLで把握した曲がり係数などをもとに、作業前に個々の木の測尺方法を決めてシステム上に入力しておけば、採材経験が浅い若手オペレータでも現場で迷わず造材できます」(塩谷さん)。
産地証明にも活用できるか
地域材のブランド化推進にも期待
デモンストレーションが行われた酒田市は霊峰・鳥海山を臨み、山間部には豊富な積雪に育まれたスギの美林が広がっている。塩谷さんは「OWL-ARを活用して「『酒田スギ』のブランド化にも挑戦したい」と意欲を語る。
OWL-ARでは現在位置情報をPCのサーバにリアルタイムで転送することで、現在地周辺の3D情報を遠隔地でも共有できる。対象木へのルート案内機能や選択した木を電子ラベルで色分けしてスマートグラス上に表示させる機能もあり、林内調査の省力化や安全性向上、現場への作業指示の円滑化などが期待されている。
「こうした機能を活用することで将来、大規模木造建築が行われる際に必要となる高付加価値の大径木などを成長係数をもとに事前に選木し、立木のまま製材業者に予約販売しやすくなる。立木のQRコード管理と組み合わせることで、丸太のブランド化や産地証明につながり、山林所有者の満足度も高まると思います」と塩谷さんは展望する。
実地デモで掴んだ感触
更なる開発に期待度・大!
デモンストレーションでは参加者から「後任者への林地の引継ぎがスムーズになる」など、OWL-ARへの期待の声が出た一方、「メガネを掛けた状態だとスマートグラスを着けにくい」といった課題も挙がった。
アドイン研究所は早期製品化に向け、本年度はユーザーと連携したデモンストレーションを各地で実施し、寄せられた声を製品開発にフィードバックする考え。スマホのカメラ機能を使うことで、スマートグラスと同じように立木情報を現場で手軽に閲覧できるアプリ開発も検討中だ。
「集約化施業では森林所有者に利益を還元できることが重要。そのために新しい技術を導入していきたい。現場の視点をメーカー側と共有することでOWL-ARの発展につなげ、若手の林業従事者にも受け入れられやすい労働環境づくりも目指したいです」と塩谷さん。アップデートが進むOWLのAR技術に今後も林業関係者の注目が集まりそうだ。
DATA
森林3次元計測システム OWL(アウル)
●本体重量:3.7kg
●本体長さ:約1900mm(移動時:約1000mm)
●計測時間:1地点45秒間(標準地20m×20mの場合、9地点計測で所要時間は10分程度)
●解析時間:9地点データで5分程度(推奨PC仕様による)
問い合わせ
株式会社アドイン研究所
TEL:03-3288-7835
メールアドレス:owl@adin.co.jp
話してくれた人
株式会社鳥海フォレスト
森林施業プランナー
塩谷政人さん
株式会社鳥海フォレスト
TEL:0234-64-2116
森林所有者への「わかりやすい提案」の為、OWL活用のもと管理コンサルティングを行う。
取材/文:渕上健太
Sponsored by 株式会社アドイン研究所