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スマートグラス越しに森林資源データを確認!『OWL-ARナビゲーションシステム』が販売開始

3次元森林計測装置『OWL』は、サービス開始から7年目を迎え、導入事例は150台を越えた。その『OWL』とAIスマートグラスを組み合わせた新サービスが1月末にリリースされる。

『OWL』は森林内を
高精度に見える化する

『OWL』とはレーザースキャナにより森林現場の空間情報を3次元データとして取得して、得られたデータは専用ソフトウェア『OWL Manager』で解析・集計し、森林内部の詳細な情報を見える化する、アドイン研究所が開発・販売している製品サービスだ。既存の手動測定方法より3~5倍の早さで効率良く作業できること、またドローン計測ではできない森林内の高精度な測定が可能であることが特徴である。


本体重量はわずか3kg台と軽量であり、専用一脚に取り付けて電源とUSBメモリを接続するだけで計測作業を開始できる。計測作業も容易だ。例えば20m×20m(400㎡)範囲を9地点で計測する場合、1地点あたりの計測時間45秒×9回、次地点への移動時間を含めても約10分でスキャンが完了する。

解析結果として、胸高直径・曲がり・樹高・材積等の立木データ、正確に配された立木の位置図や3次元立木マップ等を得ることができる。取得したデータは専用ソフトウェア『OWL Manager』で解析・表示する。オプションとして『作業道作設支援アプリ』や『採材計画支援アプリ』も利用可能である。

この『OWL』の林業現場における活用が広がっている。例えば、山形県酒田市の株式会社鳥海フォレストでは、集約化施業の提案ツールとして2022年に『OWL』を導入。取得した森林データを活用し、個別の見積書作成に役立てている。

3Dデータによる具体的な施業提案を行うことができるようになり、合意形成ツールとして非常に役立っています。山林の現況・作業道の開設ルート・間伐後のイメージを画面で説明できるので、山主の皆様から驚きと喜びの声をいただいております。また、計測された立木データは主伐時まで活用できます。森林在庫をリアルタイムで把握できるので、私たちも中長期的な視点で山主へ有利な施業プランを作成できます。山林に携わる事業者も安定した仕事や木材を確保することができる。それがOWLの大きな強みと考えます」(森林施業プランナー塩谷氏)。

 

AIスマートグラスの使用で
林内での取得データの確認が可能に

『OWL』の計測データをウェアラブル端末を通して林内で確認できるシステム『OWL-ARナビゲーションシステム』が開発されていることは、以前当サイトでお伝えした。この『OWL-ARナビゲーションシステム』がいよいよ2023年1月末に市販化される運びとなった。

そのお披露目を兼ねて、2022年12月、東京都青梅市にて実演会が実施された。林野庁、東京都、山梨県、神奈川県の担当者や当サイトを含む複数の専門メディアが駆け付けた。会場は東京都青梅市で江戸時代後期から成木の森を手塩にかけて育て続ける自伐林家である中島林業の管理山林である。

実演に先立って、開発元のアドイン研究所から『OWL-ARナビゲーションシステム』の概要が説明された。それによると『OWL-ARナビゲーションシステム』は事前に計測した森林マップの立木位置図と、林地内でLiDARセンサーを用いて取得する立木位置図を照合することで自己位置を推定して、スマートグラス上に立木情報などを表示するシステムである。表示用デバイスとしてのスマートグラスと、LiDARセンサー・GNSSアンテナ・バッテリー等から構成される位置・立木情報等を取得するための装置(森林情報ナビゲーションデバイス)とで構成される。

現状の『OWL-ARナビゲーションシステム』は、スマートグラスはヘルメットと一体化されている。このヘルメットを装着して、片手で森林情報ナビゲーションデバイスを持つ。するとスマートグラス越しに見える視界にある立木に情報が表示される。間伐木・境界木・病虫害といった特徴をもった立木の表示の帯の色は変えており、その特徴の木のみ帯を表示することもできる。
将来的には、作業性や安全性を考慮して、森林情報ナビゲーションデバイスは例えば上腕などの上体に装着する検討を行っているとのことである。

充実の使用感
今後の改良にも期待!

筆者も『OWL-ARナビゲーションシステム』を体験させていただいた。ヘルメット本体は一般的なタイプである。眼鏡を掛けている筆者が、その上からスマートグラスを掛けても違和感はなかった。そして視界には、立木情報が分かりやすく表示されていた。そのなかの任意の木を指先でタップする(実際には空中でタップする)と、更に詳しい情報が速やかに表示された。

森のなかを歩いてみたが、位置情報の取得・補正が正確であるため、表示がずれたり、立木情報を呼び出せない、といった不具合も発生しなかった。また、スマートグラスを装着したままで歩行しても、足元が不安になることもなかった。気になったのは、任意の木を呼び出すタップの感覚がつかみにくかったこと。また、遠くにある木を呼び出そうとしたとき、タップしにくい気がした。

開発責任者の塩沢さんは「改良を続けていきます。ARという技術そのものも進歩していますから、特にスマートグラスを含むユーザーインターフェイスに関しては、今後アップデートして行く予定です。ここで皆さんからいただいた意見も参考にしつつ、商品の完成度を高めて行きます」と語った。

 

今回の実演を通じて、体験者からは様々な感想が上がった。例えば、現在の仕様では「伐った」「伐らなかった」といった情報をデータとして残したいときはメモを取り、事後に『OWL Manager』に入力する。これを現場で音声入力できたら省力化に繋がる、というもの。

これには塩沢さんも「そんな意見を待っていました。製品に取り入れることができるか検討してみます」と笑顔を見せていた。

また塩沢さんによると、1月末にリリース予定の版には、『OWL-ARナビゲーションシステム』に『採材計画支援アプリ』で導出された丸太採材のデータ表示も可能となっており、ハーベスタのオペレータが装着する検証も行っていく予定である。発売開始から7年目を迎えた『OWL』は、さらに現場で使えるツールへと進化していた。

実演の場を提供してくれた中島さんにもお話をうかがった。

「例えば、スマートグラスを装着してユンボに乗って、ARによる指示を見ながら作業道を作れたら良いですよね。既に『作業道作設支援アプリ』が搭載されているのですから、不可能ではないはず。期待しています(笑)

当社は都会に至近な地域で林業を営んでいるからでしょうか、素材生産だけが林業ではない、と考えています。今、私が危惧しているのは、人々の山に対する無関心なんです。林業界に身を置く人は山の現状や人材不足に危機感を持っていると思いますが、一般の人は山のことを全く知りません。

この状況を変えたいと、私は小学生の職業体験に協力して子供達を山に招いたり、異業種の方と協力して自分で伐採した材で家具を作ったり、といった活動を行っています。伐倒現場や林道造成時だけでなく、そんな時に『OWL-ARナビゲーションシステム』があったら、きっと子供達は一般の方の林業を見る目が変わるはず。林業って凄いんだ、やってみたい、と思わせたいのです。私はより広い意味での人材育成に『OWL』が活用できると感じました」。

森林整備の加速化に向けて、地方自治体では森林資源情報のデジタル化を目的に『OWL』を購入するケースが増えており、『OWL-ARナビゲーションシステム』の導入もさらに拡大しそうだ。

 

問い合わせ

株式会社アドイン研究所
TEL:03-3288-7835
メールアドレス:owl@adin.co.jp


撮影/金子 怜史 取材/文:川島礼二郎

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