市売からシステム販売へ 大型市場・伊万里木材市場の事例から読む原木流通のいま
2020/09/02
伊万里木材市場は、従来からの市売をほぼほぼ脱却し、特定の顧客に相対で販売するシステム販売を中心に原木販売事業を展開しており、原木取扱商社としての性格が色濃くなっている。大型市場が一体どのように「脱・市売」を果たしたのだろうか。
メイン画像:伊万里木材市場全景。伊万里木材コンビナートの一角を占め、西九州木材事業協同組合、中国木材伊万里事業所とチェーンを形成。
システム販売が98%
国内最大級の国産材原木取扱業者である株式会社伊万里木材市場では、現在、特定の顧客に相対で販売するシステム販売を中心に原木販売事業を展開しており、従来からの市売は、優良材や特殊材に限って実施している。
営業拠点は、佐賀県伊万里市の本社のほか、福岡営業所(福岡県田川郡)、大分営業所(大分県由布市)、南九州営業所(鹿児島県曽於市)と九州各所に広がり、広域で事業を展開している。
2019年度の取扱量は60万㎥。販売方法別の内訳は以下の通りで、システム販売が取扱量の98%を占めた。営業拠点別では本社が約26万㎥、福岡が約3万㎥、大分が約9万㎥、南九州が約22万㎥となっている。
伊万里木材市場の販売方法別原木取扱実績(2019年度)
※西九州木材事業協同組合向けもシステム販売の一環
年間原木取扱量60万㎥は市場では最大級。その98%は特定顧客向けのシステム販売。市売りは高品質材や特殊材材に限って実施。
コンビナート参加で飛躍
同社が飛躍したのは、国内最大の木材メーカーである中国木材株式会社(広島県呉市)とともに伊万里木材コンビナートのプロジェクト(2004年から稼働)を立ち上げたのがきっかけである。中国木材と共同で設立した西九州木材事業協同組合の大型製材工場を自社の隣接地に配置し、さらに隣接する中国木材伊万里事業所とともに、①原木の集荷・供給(伊万里木材市場)→②集成材用ラミナ製材(西九州木材事業協同組合)→③集成材製造・プレカット加工(中国木材伊万里事業所)──を一体的に手掛ける事業スキームを構築した。
この取り組みで、西九州木材事業協同組合にラミナ製造用の原木を直接販売するようになったのがシステム販売の始まりで、その後、同協組以外にも顧客を開拓。山側の供給サイドとの連携も強化し、業績の大幅アップを実現した。コンビナートスタート前の年間原木取扱量は6万㎥程度で、現在はその10倍に拡大したことになる。
システム販売の取引先は、西九州木材事業協同組合のほか、九州各地の有力製材業者や合板工場、さらに中四国の業者とも取り引きしており、年々増加している。
量の拡大が至上命題
システム販売の手数料は5%(市売は8%)で、整木料は650円/㎥(市売は末口径14㎝以下が1500円/㎥、14㎝以上が1000円/㎥)と市売よりも安く設定しており、それにより取扱量を増やし、売上を確保するねらいがある。
裏返せば、手数料や整木料を安価に設定している分、収入を確保するためには取扱量を増やさなければならない。つまり、システム販売の導入は、原木を大量に取り扱うことで業績アップを図る、量を重視した経営路線を同社が選択したことを意味する。
合理化で採算確保
ただし、安価な手数料や整木料でも採算を確保するためには、原木の取扱いにかかる経費を引き下げる必要がある。つまり、合理化や効率化が必須となり、同社では、例えば手作業での検知は行わず、自動選別機のデータのみを活用するといった合理化を進めている。
システム販売という手法によってもたらされたコストダウン効果もある。市売の場合は、選別仕分けを行って椪を作っても入札結果が振るわずに元落ちになるケースがあり、そうなれば椪のつくり直しや土場での再整理など、売上につながらない作業が生じる。それに対して、システム販売では、決まった顧客に決まった品質の原木を決まった数量で販売するため、土場での作業に無駄が生じない。
このように見てくると、同社はもはや市場というより、原木取扱商社としての性格が色濃くなっていることが指摘できる。
協力
株式会社伊万里木材市場
常務取締役
伊東貴樹さん
文:赤堀楠雄
FOREST JOURNAL vol.4(2020年夏号)より転載