樹木採取権制度がスタート、その目的と問題点は? 再造林の費用は国が負担
2020/04/14
4月1日から施行された「樹木採取権制度」。国有林の伐採権を民間業者が取得できるようになった。この制度が生まれた背景と、その問題点を整理する。
目的は、
林業経営体の事業量の安定化
4月1日に施行された改正国有林野管理経営法に基づいて「樹木採取権制度」がスタートした。これによって、最長で50年間、国有林の伐採権を民間業者が取得できるようになった。
樹木採取権制度は、昨年からスタートした森林経営管理制度と「セット」とされている。森林経営管理制度では、経営管理が不十分な民有林を「意欲と能力のある林業経営者」に集積・集約化する「新たな森林管理システムの構築」が掲げられた。
「この制度を円滑に機能させるためには、制度の要となる林業経営者の育成が不可欠」であるとして、林業経営体の事業の安定化のために導入されたのが今回の樹木採取権制度だ。一言でまとめると、「林業経営体の事業量を安定化させるために、国有林の伐採を認める制度」となるだろう。
事業量の見通しが立てやすくなることも林業経営体にとって大きなメリットだろう。「年度ごとに場所や時期を指定し、入札によって立木を購入して伐採する」という従来の方式に対し、樹木採取権制度では一定区域の立木を、一定期間(10年を基本に設定)、安定的に伐採できるからだ。年度をまたいだ長期間の伐採計画を立てられれば、林業機械の導入や、人員の増加も進めやすくなる。
伐採規模が数百ヘクタールに?
一方で、樹木採取権制度についていくつの問題点も指摘されている。新制度によって、伐採規模は従来の数ヘクタールから、数百ヘクタールまで一気に拡大した。ここで言う伐採とは、基本的に皆伐を指すことから、山林の荒廃を危惧する声が上がっている。
これについて林野庁は「一箇所あたりの皆伐上限面積は従来と同じ」と回答。「数百ヘクタールの伐採規模」というのは、10〜50年をかけて伐採する面積の合計であり、単年度あたりの伐採面積は数十ヘクタールに留まるとしている。
再造林の費用は国が負担
「再造林がしっかり行われるのか?」という懸念の声もある。国は伐採した事業体に再造林を「申し入れる」だけとしているからだ。これに対して林野庁は「国有林の造林は、国が責任を持って行っており、今後もそれは変わりません」と回答。「仮に事業者が再造林を行えなかった場合も、国が別の事業者に委託して確実に再造林をします」と明言している。
しかし、ここで注意してほしいのは、いずれにしても再造林は国と事業体が「造林請負契約」を結んだ上で行うということだ。つまり、造林のためにかかる経費を負担するのは国である。本来であれば、木材の搬出によって利益を得た事業体が造林経費を賄うべきではないか。「植える、育てる、伐る」のサイクルを確立してこそ、「意欲と能力のある林業経営者」ではないのか。その部分で疑問は残る。
いずれにせよ制度はスタートしてしまった。今後具体的にどのようなメリットとデメリットがもたらされるのか、注視していきたい。
TEXT:松田敦