非住宅向けの大型製材工場が高知に稼働。「四万十ヒノキ」PR、木材利用促進へ
2022/01/17
木造・木質化に関心が集まる中、ヒノキ主産地の高知県高岡郡四万十町に2022年4月、木造の大規模建築物向けの部材生産に対応する大型製材工場がオープンする。特産「四万十ヒノキ」の新たな販路開拓を目指す。
メイン画像:既存施設も活用しながら整備が進む新工場
県産材の利用拡大を
四万十ヒノキをPR
施設の名称は『しまんと製材工場』。四万十町内の協同組合高幡木材センターを運営する組合員5社のうち4社が出資し、センター敷地内に整備している。最大で末口50cmまで対応できる無人の大型製材機のほか、長さ8mの丸太にも対応できる長尺材用の製材機を導入。木材乾燥機は、減圧式の高性能タイプ3基を含む計7基を配置する。
県内の素材生産業者などと協定を結び、四万十ヒノキを中心に年間4~5万m³の丸太を仕入れ、非住宅用の建築部材のほか、一般住宅向けの柱や土台、筋交いなどを含めて年間2万800m³の木材製品を生産する計画だ。日本農林規格(JAS)の認証取得も予定し、高付加価値製品の供給を目指す。
高幡木材センターが扱う「四万十ヒノキ」などの製材品
県産材の非住宅向け利用の拡大を目指す高知県のモデル事業の位置付けで、総事業費約15億円のうち約7割に国、県、四万十町からの補助金を充当。完成後は出資する組合員4社が協業する形で運営する。新築する工場建屋には大断面の集成材を主な構造体として使うなど施設内でも木材利用を積極的に進めている。
大断面の集成材などを利用して新たに建てられた建屋
四万十川流域はヒノキ生産が盛んな地域として知られ、豊富な材積が蓄積されている。高幡木材センターの伊藤訓新代表理事は「今後の人口減少を受けて住宅向けの木材需要が減る見通しの中、新たなニーズに合った製品をつくりたい」と新需要に期待する。出荷する製品には、地元の四万十ヒノキブランド化推進協議会が商標登録する「四万十ヒノキ」のラベルを張り、全国に産地をアピールする。
新工場建設の狙いを話す伊藤代表理事(右)と上村賢介副理事長
林野庁のまとめでは2020年度の高知県内の素材生産量は49万7000m³。このうちヒノキは20万8000m³で全国1位の熊本、2位の岡山、3位の愛媛に続く4位となっている。
一方、高知県のまとめでは2018年時点で素材生産量全体の2割程度が県内で加工、消費されずに原木で県外へ出荷されており、製材をはじめとする木材産業の一層の振興が課題となっている。県の担当者は「ウッドショックで国産材のニーズが高まる中、ニーズのあるJAS認証適合材の生産で高知県がイニシアチブを取れるようにしたい」と話す。
脱炭素社会の実現にも貢献
木造・木質化の取り組み
国内では2010年に公共建築物等木材利用促進法が施行。林野庁によると公共建築物の床面積ベースの木造率は同法制定時の8.3%から2019年度には13.8%に上がったものの、民間の中高層建築物などを中心に木造化が遅れている。
木材の製造過程で必要となるエネルギー量は鋼材の数十分の1程度との試算もあり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成や脱炭素化推進が課題となる中、国は木造化促進の対象を民間建築物にも広げ、脱炭素社会の実現も目指す内容へ2021年10月、同法を大幅改正した。
こうした動きの中、非住宅向けの木造・木質化の取り組みは全国で広がっており、民間では三井ホーム(東京都)が東京都稲城市で第一弾を手掛ける「木でつくるマンションプロジェクト」が国土交通省による2020年度の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択された。国産材を利用した5階建て木造大規模中層マンションの建設事業で、木材の特性を生かし、先進技術を駆使した大規模木造建築として注目されている。
自治体では東京都が地元の多摩地域産の木材などを使った都市やオフィスの木質化推進の情報発信拠点「MOCTION」(モクション)を新宿区内に2020年に開設し、来場者を集めている。
文/渕上健太