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林業者の取り組み

クマとの遭遇、そのときどうする?

今年もクマが人里に多数出没している。しかし、対策はどれも「人間の住む領域にクマが入って来ることへの対策」であった。クマに遭遇したとき・しないためにどのような対策をすべきか、改めて確認しよう。森林ジャーナリスト・田中淳夫が考える希望の林業。

クマと遭遇したとき・
しないための対策

今年もクマ(ヒグマ、ツキノワグマ)が人里に多数出没している。なかにはアーバンベアと呼ぶ積極的に町に出て来るクマもいて、対策が急務となってきた。それについて考えていて気がついた。そこで検討されている対策には、田畑など人の領域に防護柵を築くことのほか、農業廃棄物や生ゴミなどクマの餌の除去がある。また町の中に侵入したクマは、駆除するしかないとしていた。しかし、いずれも人間の住む領域にクマが入って来ることへの対策だった。

林業関係では、人がクマの領域に入るのが通常だ。森林調査や植え付け、下刈り、間伐、枝打ちなどの作業は人が森の中に入らざるを得ない。そこでクマと遭遇した場は、どうしたらよいのか。

クマの人里出没が増えたのは、ベースに生息数の増加がある。従来の生息地が飽和状態になったから人里に出るわけだ。言い換えると森の中のクマは多くなった。そこに人が入るのだから遭遇する機会も増えるはずだ。

事例を見ると、造林地の周囲に築いた防護柵は、クマにはあまり効き目がない。シカは防げても、クマがその気になれば簡単に破るか乗り越えてしまう。またクマが餌とする草木の若葉や果実、あるいは昆虫などは、森林に普通にあるので除去するのは不可能だ。人工林の林床にも食べられる低木や草が繁っているところは多い。しかもスギなどの樹皮を好むクマもいる。

そして、林業従事者が銃を持ち歩きながら作業することも現実的ではない。通常は、鈴をつけて音を立てる、クマスプレーなどを持参するなどの対策が考えられる。ないよりマシだろうが、最近の報告では鈴のような小さな人工音を気にしないクマも増えたようだ。むしろ寄ってきたという報告もあった。またクマスプレーは、接近されると取り出すのも無理だったそうだ。

とはいえ、ギブアップすることもできない。基本的な対策を海外のマニュアルなどから紹介しておこう。
まず森に入る前、あるいは作業中に、爆音を立てるなどして先にクマを追い払う。作業中も大きな音を立てる。もし人が先にクマに気づいたら、なるべく動かないこと。動くものは目に止まりやすく、人に気づいて敵対行動と認知されやすい。気づかれた場合は、視線を合わせず、ゆっくりと後ずさりする。背中を見せると攻撃本能を刺激しかねない。距離が開くとクマの攻撃モードは解除される。

重要なのは地域の出没情報を可能な限り共有することだ。どこにいるのか、行動範囲などを把握する。目撃情報があったり新しい糞や足跡など痕跡を発見したりしたら、林内に入る作業は中止するべきだろう。なおクマに限らないが、野生動物に対峙するには、専門知識と専門技術が必要だ。その研修を行う必要がある。駆除するにしても、猟友会に頼るだけでは間に合わない。専門の公務員ハンターを抱える自治体も出てきた。将来的には、その養成も含めて取り組むべきだろう。

PROFILE

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島』(イースト・プレス)、『山林王』(新泉社)など多数。奈良県在住。
 

著書

『盗伐 林業現場からの警鐘』


2024年3月31日発行/新泉社

他人の山の木を無断で伐って木材を盗む盗伐は、日本各地で頻発している。いや欧米を含む世界中で違法伐採は起きているのだ。林業を内側から破壊し、地球環境も危うくする犯罪を、現場からのレポートに加え、歴史的な経緯や取り締まる国際的な動き、そして日本の対応を追跡する。
 



 


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