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馬と暮らし、働く幸せを求めて──西埜さんが手応え感じた「馬搬の市場可能性」とは?

海外で目の当たりにした
理想とする馬搬の在り方

その一方、イギリス、スウェーデンへも馬搬の視察へ出向いた。そこで、自分が理想とする馬搬の在り方を目の当たりにしたという。

イギリスでは動物福祉が進んでいて、馬の負担を軽減する道具もあるし、女性や高齢者でも、馬搬のプロとして仕事をしていました。

昔の日本のように大量の丸太を積んで馬に引っ張らせるようなやり方は難しいけれど、こういう形なら今の時代でも可能性があると思えたのは大きかったですね」。

馬と共に暮らし、共に働く理想のライフスタイル。それを実現するべく、いつしか独立を模索するようになったという西埜さん。

最終的に背中を押したのは、北海道厚真町で新たにスタートしたまちおこしプロジェクト、「ローカルベンチャースクール」制度を知ったことだった。

「ローカルベンチャースクール」とは、村町の応援を受けて地域おこし協力隊として働き、最大3年間で事業の自立を目指す、というもの。厳正な審査を経て、西埜さんは第一期生として採用が決まった。 


来た当初は、チェンソーの音やアブを怖がったり、森に入ること自体、拒否反応を示していたというカップ。今では人との息もぴったりで、どんな現場でも落ち着いてこなすベテランに成長。

厚真町に移住後は、ばんえい競馬の引退馬を買い取り、家族で世話をしながら、馬搬のトレーニングに励む日々。カップという名のその馬は、徐々に山仕事にも慣れ、町有林、河畔林、企業所有の森の間伐・搬出・整備など、3年の間にあらゆる現場を経験。

西埜さん自身、馬搬技術による市場開拓の可能性に手応えを感じたという。

「山が荒れない、化石燃料を使わず環境負荷が少ないという点が注目されますが、林業技術としても馬搬の優位性はあります。重機よりも繊細な作業ができる馬搬は、自由度が高く、高性能なウィンチ。馬単体ではなく、グラップルフォワーダなどの道具と組み合わせれば、活きる現場は多い」。


カップ(右)とウクル(左)。ゆくゆくは、2頭でグラップルフォワーダを引っ張るようにできたらと考えているという。

地域おこし協力隊を卒業し、「西埜馬搬」として独立して現在3年目。今は、カップに加え、ポニー馬のハスポン、小柄のばんばのウクルを揃える3頭体制で、林業以外の分野にも活躍の場を広げているそうだ。


ポニーのハスボンは、小学生との触れあい体験で活躍するなど、教育イベントなどで欠かせない存在だ。

「公園整備など林業と造園の間くらいに、馬搬が活きる可能性がありそうと感じています。また、ワイナリーでの馬耕など農業の現場や、子供達と森を開拓するなど教育シーンでもニーズが増えています。

昔の人も、冬は林業、夏は農業という感じで、通年、馬と共に仕事をしていた。僕自身、最初は林業の手段として馬を選んだけど、今は馬と働くことの楽しさを実感しながら、世界を広げてもらっている感じです」。

可能性は、まさに未知数。今後の展開から目が離せそうにない。


馬搬によって丁寧に伐採搬出したナラの木を薪にして販売している。

 

PROFILE

西埜馬搬

西埜将世さん


取材・文・写真:曽田夕紀子



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