「林業は危険な職場」のままで良いのか? 「組織経営」により安全で働きやすい業界へ
2021/12/21
SNSの炎上事例から林業で働く人の命の重さについて考える、経営支援のプロ・楢崎達也のコラム。土木業界の安全性を向上させるために大事なこととは?
危険はつきまとう林業業界
「仕方ないよね」で良いのか
今どきのおじさんである僕も例に漏れず色々とSNS(ソーシャル・ネットワークキング・サービス)を楽しくやっています。いつぞやは、カミさんの悪口的なことを書きそれがバレ、そのSNSはそれ以来、更新していません(笑)。
約2ヶ月前、とあるSNSの情報共有グループに、林業を学んでいて就活中の学生さんによる投稿がありました。うろ覚えなのですが、「林業会社に就職したいと思っているのに、周りの大人が『林業だけはやめておけ』と反対します。私の考え方は間違っているのでしょうか。」というもので、それに対し多くの方々が全国から賛否のアドバイスを書いていました。
また、8月にある有名YouTuberが自分から感覚的に遠いホームレスの人たちに対する見解として「ホームレスの命よりも自分の飼っている猫の命の方が重い」というようなコメントを発信し大炎上しました。僕も登録者数1000人のYouTuber(ただし、更新は4ヶ月滞っている)の端くれとして配慮しなければ、と思いました。
この2つのやりとりを見て、林業での労働災害のことが頭に浮かびました。
林業は労働災害が多い業界だということは、残念なことでありつつ、我々、誰しも知っていることです。この事実が故に、林業の仕事に就くということは、死と隣り合わせであるという認識を誰しも持っていますよね。僕はシンクタンク業者(≒調査業者)として、1県あたり毎年1〜2名の死者が発生したとしても「仕方ないよ、林業だもの。」という気持ちでいました。
しかし、数年前に業務改善支援コンサルタントとしてお手伝いしていた林業事業体で労災が発生し新人の大怪我を目の当たりにしました。当然、業務改善は中断です。翌年には、親しかった森林技術者を伐倒作業中の事故で亡くしました。
僕は、林業に関わる仕事をしていますが、コンサルタントという、現場から少し離れた立場から林業を見ています(ちょっとズルい)。それが故に「林業業界で働く以上、事故はつきもの」だと知識として思い込んでいて、林業で働く人の命を軽く見ていたことに気が付かされました。上記の有名YouTuberと同等レベルの考え方です。
林業は危険な業界です。ただ、「危険だから仕方ないよね。そういうもんだよね。」ではないはずです。かつて、同じような状況だった土木業界の安全性は、現在では大幅に改善されています。危険なことがわかっているなら組織マネジメントを改善すれば、林業も安全で働きやすい業界・職場になり、「林業で是非、働くべきだ」と言ってくれる人も増え、人の集まる業種になれると思います。
土木業界が安全性を向上させることができた要因の1つは、「業界的・会社組織として取り組んだこと」が挙げられます。「個人的な安全管理」ではないということです。この点が本コラムで皆さんにお伝えしたい「組織経営」とつながっている部分です。
安全性を高める活動は、まさに「組織経営」としての活動です。幸せになるために選んで集まってきた従業員を、理事さん・経営者さんは怪我させたり、死なせてはいけません。いつか、僕を含む林業関係者や一般の人が「林業は安全になったよね」と思える業界にしていきたいです。
PROFILE
FOREST MEDIA WORKS Inc. CEO
楢崎達也
カナダで森林工学を学んだ後、京都大学大学院を経て、大手銀行系シンクタンクにて森林・林業部門、大手林業会社S社の山林部門勤務。現在、同社にて、森林組合の経営改善支援、人材育成カリキュラム作成・運営、森林経営管理制度実施支援、林業×メディア融合、ITソリューションの現場サイドからの設計をしている。次世代森林産業展2019プロデューサー。
FOREST JOURNAL vol.9(2021年秋号)より転載