馬とともに”理想の林業”を目指す――「馬搬」に見る地域づくりのヒントとは?
2019/08/23
「信州・松本平の豊かな風景をつくる」というコンセプトを掲げ、林業の枠に収まらない多彩な活動を行う株式会社柳沢林業。2016年から始めた「馬搬」の可能性とは?
メイン画像:牧場での馬搬トレーニングが日課のヤマト。平地、坂道、コーナーワークと様々な環境で荷を引く練習を行う。
里と山をつなぐ
林業の役割
山で伐採した木材を馬で運搬する「馬搬」は、古くから日本の林業を支えてきた伝統的な搬出技術だ。昭和中期以降、作業の機械化が進んだことで担い手が大幅に減少したが、近年になってその良さがあらためて見直されつつある。
「合理性を追求するドイツの林業でも、素材生産のうちの1%を未だに馬が担っているそうです。『馬搬』は、けっして生産性が低いわけではなく、可能性のある技術なんですよね」。
そう話すのは、2016年夏に、北海道ばんえい競馬の引退馬・ヤマトを引き取り、馬搬事業を進めている株式会社柳沢林業の代表取締役社長・原薫さん。
地元信州の木を使うためのプロジェクトチーム「ソマミチ」の代表も務める原薫さん。
ヤマトを迎えるにあたって、長年放置されていた牧場跡地を開墾し、整備。そこで、馬方とともに日々トレーニングを積むヤマトは、今では、実際に現場で活躍するまでに成長した。
牧場近くの荒れ地を使い、放牧地として活用。隣では遊休農地を耕し、大豆の栽培も手がける。
馬搬のメリットとはなにか。まず、人家にほど近い場所に森が広がる松本において、重機が入れない山の木も運び出すことができる。また、大規模な作業道を必要としないため、道を作るコストも燃料もかからない。さらに、馬が木材を運んだ跡ならすぐに植物が生えてきて、環境にも優しい。まさにいいことづくめだが、実務以外にも様々な好影響があったと、原さんは語る。
「馬は、道具ではなく生き物。力づくではなく、意志を伝えて動いてもらうためには、まず馬に心を開かないといけない。林業の現場にいたスタッフを馬方として従事させたのですが、彼自身の成長を感じるなど、人材育成にも一役買ってくれています。それと、牧場を開放して誰でも入れるようにしているのですが、まるで裏山で遊ぶような感覚で地域の人たちが来てくれるようになって。自然を感じたり、人との出会いがあったり、山をそういう風通しのいい場所にすることがヤマトを受け入れた目的でもあったので、とても嬉しく思っています」。
ヤマトが信頼を寄せる馬方の犬飼哲平さん。
原さんが目指す林業は、「里と山をつなげ、豊かな社会をつくること」。そのビジョンを実現するための重要なピースとして、ヤマトが存在している。
地域の人が自然と集まる場に。写真は、ヤマトの弟分、ポニーのコタロー。
「馬が来たことで、理想とする『循環』のヒントが見えてきたような気がします。遊休農地を畑に戻す馬耕や、肥料としての馬糞の活用などもやっていきたい。自然と調和した『山基準』の産業として、林業を取り戻していきたいです」。