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放置林の解決策? 『相続土地国庫帰属制度』は機能するか

放置林=所有者不明土地の増加は、日本の山の重要な問題だ。2023年にようやく新たな制度が誕生し、「相続土地国庫帰属制度」が始まるが、これは機能していくのだろうか。森林ジャーナリスト・田中淳夫が考える希望の林業。

「相続土地国庫帰属制度」
2023年4月から開始

日本の山の重大事の一つに放置林の増加がある。山林の価値が落ち、林業経営を諦めるだけでなく、相続するのも嫌がられる有様だ。そのため相続人が分散し境界線もわからなくなって放置される。

放置されると、いよいよ森は荒れ、ときに道路を倒木がふさいだり、土砂崩れを引き起こしたりと災害の発生も問題となってきた。その際に、誰が後始末するのかも厄介である。

相続時に放置される土地問題に対して、ようやく国も動き出したようだ。まず現在の法律ではどうなっているのか。

相続の場合、名義変更と登記は義務化されたので、市町村役場への届出が必要だ。相続放棄をすれば基本的に国のものになるが、山林だけを切り離すことはできないから全財産の放棄になってしまう。非課税枠や税額控除も適用されない。また相続人全員の合意を必要とする。

なお自治体などに山林の寄付を申し出ても、通常は断られる。受け入れてくれるのは、その土地に利用計画があるか、保護の必要な環境がある場合だろう。

だが今年から新たな制度が誕生した。放置林=所有者不明土地が発生することを予防するために、4月27日から「相続土地国庫帰属制度」が始まる。相続を希望しない土地を国が引き取ろうというものだ。相続のうち山林だけ放棄、が可能になる。



これで一件落着と思いたいところだが、どんな土地(山林)でもよいわけではない。建物があったり境界線が明確でなかったりする土地は引き取らない。ほかにも隣接地と争いがないこと、敷地内に急勾配・崖の地形を含まない……などといった条件もある。

しかも、国はタダで引き取るわけではない。まず引き取れるかどうか審査を受けるが、それが有料。そして引き取る場合も負担金を求められる。その計算式は面積によって変わるので複雑だが、最低基準(750㎡以下)でも25万円以上になる。数ヘクタールもあれば、結構な金額になりそうだ。それでも手放したいと思う人向けである。

もう一つ、個人が管理しない山林を対象にした法律に「森林経営管理法」がある。こちらは、放置されている森林を自治体が預かる法律である。市町村は、管理委託を受けて経営管理を代行することを定めている。

ただし、これは林業に供する山林を想定している。こちらも条件次第だが、森林所有者が放置するのは、あまり木材生産が見込めない山が多い。利益の出ない山を委託されても具体的に何をどうしたらよいのか……と自治体も困惑している有り様だ。森林環境譲与税などを使って、少しずつ森林整備を進めるしかないだろう。

このように放置山林を処分しようと思ってもなかなか簡単ではない。まさに“負動産”なのである。もっと根本的な対策を考える必要があるだろう。

PROFILE

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『虚構の森』


2021年11月30日発行/新泉社

気候変動、生物多様性など、地球的な環境問題が語られる昨今、森林はそれらの大きなキーワードになっている。だが、森林の役割は異論だらけで、果たして何が正解なのか、よくわからない。本書は、そうした思い込みに対して、もう一度一つ一つ検証を試みた。そして林業の役割にもの申す。植林や間伐がCO2の吸収を増やすのか、森があると洪水や山崩れを防げるのか。不都合な真実と真の環境問題の解決を考える。


FOREST JOURNAL vol.15(2023年春号)より転載

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