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林業者の取り組み

川上・川下連携の課題は「情報の共有不足」 新たな木材サプライチェーンを構築して克服を

これまでも川上・川下を連携するべく様々な試みが行われていたが、「情報の共有不足」により協力関係が崩れてしまっていたケースが見受けられる。「新たな木材サプライチェーンを構築する」ことが、これらを克服するためにも、ウッドショックに負けないためにも必要だ。

» 前編『ウッドショックに負けないビジネスモデルを! 成否の鍵は「木材のサプライチェーン」』はコチラ!

川上と川下の提携は
重要だが難しい

前回、川上と川下の連携の大切さを伝えたが、実はこれまでも幾度か同じ試みが行われていた。とくに2000年代初頭は、全国に「近くの山の木で家をつくる運動」が広がり、「顔の見える家づくり」が広がった。当時は国産材(=近くの山の木)振興の意味が強かったが、システムとしては林業家と製材所、そして建築家が組んで行う産直方式である。施主が山を訪ねて自分の家を建てる木を選んだり、自ら伐ったりするイベントも行われた。そして建築家は国産材を多く使う家を設計したのだ。

この運動は一世を風靡し、全国に同じような会が設立された。森林・林業白書でも取り上げられた。しかし、数年で急速に萎んで解散した会も多い。なぜだろうか。簡単に言えば、この「顔の見える家づくり」を主導するのが建築家であったことだ。それが悪いのではないが、問題は買い取る木材価格。私が取材したケースでは、ほとんどが「時価」だったのである。つまり市場価格に合わせるというのである。

それでは林業家にとって価格は安定せず、安値に偏りがちでメリットは薄い。むしろ施主を山に案内するなど手間ばかりとられる。個人住宅だから、1件成約しても大量の木材が捌けるわけでもない。美味しいところは建築家が持っていく……と恨み節を聞かされた。結果的に協力関係が崩れて開店休業状態、あるいは解散することになったのだ。

ここに川上と川下の提携の難しさがある。結局、疑心暗鬼に陥るのだ。その理由は、情報が共有されていないことだろう。山側に年間で必要な木材の量や質をあらかじめ伝わらず、また価格もはっきりしない。逆に建築家側からすると、欲しい木材が必ずしも供給されるかどうかわからない。それぞれがいくらマージンを取っているのかも開示されない。そうした状況は、お互いを信頼し合えなくする。



新たなサプライチェーンを構築し
ロス削減・国際的動向へ対応を

今回のウッドショックに負けない家づくりを行う企業体では、それをいかに克服するかがポイントだ。やはり必要なのは、建築家・工務店側が明確に年間の経営計画を公表すること。林業家も自分の山にある木の種類(樹種、樹齢、材質)や量などを把握して木材生産計画を示すこと。製材、プレカットなどの流通過程も価格を含めて公開すべきだろう。それができて初めて、信頼感が生まれる。すると1本の木を無駄なく使うことも可能になるし、流通で発生するロスを排することもできる。

前回上げた事例では、木材流通の各社が集まって一つの会社を設立するところが多かった。とくに伊佐ホームズが設立した森林パートナーズは、ICTによって木材の流通過程の細かな情報も各人が一目でわかるようにしている。立木価格を引き上げて山主へ多く還元する一方で、材質を細かく定めた規格をつくって林業側にも出荷責任を負わせている。情報を共有するから、利益を各部門に適正配分することができるのだろう。

いずれにしろ日本の林業・木材産業は曲がり角に来ている。流通各段階がバラバラの思惑で動く従来型では多くのロスが出るうえ、国際的な動向にすぐ対応できない。新たな木材サプライチェーンを構築する必要がある。



PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。

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