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ウッドショックに負けないビジネスモデルを! 成否の鍵は「木材のサプライチェーン」

ウッドショックに振り回されている現在。今後も木材価格は乱高下する可能性があり、十分な対策が必要だ。そこで今回は、各企業体のビジネスモデルを確認してみよう。見えてきたのは「サプライチェーン」の重要性だ。

ウッドショックに惑わされない
各企業体のビジネスモデル

今年に入って日本の林業-木材産業は、アメリカ発のウッドショックに振り回されている。輸入建材の価格が高騰して木材不足になったかと思えば、国産材も引っ張りだこになった。しかしアメリカでは、6月の木材価格が暴落した。今後も乱高下する可能性があり、果たして日本にどんな影響が出るのかわからない。

そこで木材価格の乱高下に惑わされない経営を行っているビジネスモデルを探してみよう。実は、ウッドショックの影響を受けていない企業体も少なくないのだ。



一つは一部の大手ハウスメーカーだ。もともと経営計画は年間で組んでおり、必要な建材の調達も半年1年先まで進めている。ウッドショックが長引けば今後影響を受けるかもしれないが、現時点では問題ないそうだ。

中堅ビルダーはどうか。静岡県浜松市のアイジースタイルハウスは、林業家や製材所、建具・家具会社と組んで「ジャパンウッドプロジェクト」を立ち上げていた。これは住宅建築の予定をあらかじめ山側に伝えて、木材生産を計画的に行うものだ。そして大径木から柱や梁などの構造材だけでなく、内装材や建具、家具用に回すなど1本の木材を無駄なく使うシステムである。川上側から川下まで年間計画で動くので、目先の仕入れや価格に左右されない。このシステムは、昨年のグッドデザイン賞を受賞している。

東京の伊佐ホームズは、秩父の林業家や製材所、プレカット工場とともに森林パートナーズ株式会社を立ち上げた。そして木材を市場価格の1.5~2倍に設定して、計画的に木材生産を行えるようにした。製材などは賃挽きにする。流通にはICTを導入して無駄を省くことで住宅価格を抑え、トレーサビリティも確保できるようにした。

千葉県のウッドステーション株式会社は、設計データから得られた情報を製材所や林業家と共有することで、建築で必要となる大型パネルの断面寸法や長さなどを把握し、木材生産を最適化するビジネスモデルを打ち立てた。木材を無駄なく早く調達できるうえ、価格も安定させるというシステムだ。こちらは19年にグッドデザイン賞を受賞した。



サプライチェーンを押さえて
安定した経営を

これらの例でもうおわかりだろうが、事前に木材の購入を長期契約している。そして山元の木材生産現場と工務店など木材を使用する側が提携して計画的に木材調達と建設を進めている。つまり木材のサプライチェーンを押さえているのだ。必要とする木材の量や購入価格を年間で把握して発注するから、ウッドショックのような突然の価格高騰にも影響を受けない。

山側も、自分の山の木がどこの何に使われるか知らないまま伐採して市場に出すのとは違って、具体的な使われ方を知り価格も定まっていれば、機材や人員の配置なども計画的に進められる。つまり林業・建築双方の経営が安定するのである。

残念ながら、これまでの日本の林業、木材産業、そして建築業界は、いずれも自らの経営情報を隠しがちで、手の内をさらすことを嫌がった。だが、そのため双方が疑心暗鬼になって計画的な生産や建築ができなくなる。結果として今回のウッドショックのような、海の向こうから来た波に翻弄されてしまった。

今後、ウッドショックは弾けて木材価格も下落するかもしれない。それに備えるためにも川上と川下の提携を進め、木材のサプライチェーンを安定させるべきだろう。

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。

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