イノベーション

林業のイメージをがらりと変える! 特殊伐採(アーボリカルチャー)の影響力とは

近年、林業界で注目を集めている「特殊伐採(アーボリカルチャー)」。見た目の派手さから注目されているが、“安全”に行うための技術として進んでいる。また、安全に木を伐る技術を身につけるだけではもったいなく、肝心なことがもう一つあるのだ。(後編)

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高難度なテクニック
その作業工程とは

現在の「特殊伐採」「アーボリカルチャー」の方法は、ロッククライミングやヨットなどで使用される道具やロープワークテクニックを応用して発達させたものが多い。身体を固定するハーネスやロープに設置して安全に登り下りする昇降機が使われる。今ではツリークライミング専用の器具も開発されている。いずれにしても、樹上作業は危険度が高く、それゆえに細かな手順を押さえた技術が要求される。
 
作業工程を追うと、まずロープに重りを付けて投げたり弓などで高見の枝に引っかけ、昇降機を使って登る。そして木の上で身体の安全を確保してから、小型のチェンソーなどを使って枝や梢を落とす。そして伐った部分もロープで結び、安全に地上に下ろすのである。また木から木へ飛び移ったり梢に立ったりとアクロバティックな姿も見せる。
 
アーボリカルチャーには国際的な組織もあって、毎年世界大会を開き、各国から猛者が集まり樹上の技を競うのだそうだ。
 
木登りや樹上作業を教える講座や研修会も各地で開かれるようになってきた。なかには欧米から講師を呼んできて、先進の技術を教わり指導するところもある。そこには「ロープを使って木に登る」「樹上でチェーンソーやノコを扱う」「重たい枝や幹を吊り下ろす」、さらに「樹木を痛めないように枝を切断する」、そして何よりも「いかに安全に行うか」という技術の体系化が進んでいる。
 
ちなみに日本の林業界にも、伝統的な縄を使った木登りと樹上作業の技術はあった。それはスギやヒノキなどの種子を採取するためや、枝打ち作業で行うものだった。ただ個人の身体能力に頼って名人芸扱いされており、残念ながら安全面では心もとない。
 
そこに欧米のアーボリカルチャーの道具や技法などを加えて安全に登り下りできるだけでなく、針葉樹のほか広葉樹、そして街の木々にも対応できるように進化してきた。
 
高い技術を要求されるだけに、作業量に比して料金は高い。加えて手がける人にとっては、料金だけでなく樹に登る楽しさ、樹上作業、ロープワークテクニック……など技術を売り物にする点でも魅力的なのだろう。
 
もちろん林業界全体からすると小さな分野である。しかし、街の人の目に触れることが多く、人々の林業に対するイメージを変えることにも貢献する。そして林業従事者の仕事の幅を広め、現場から新たな仕事を生み出すことにもつながるだろう。
 
ただし、近年の広がりによって注意すべき問題も発生している。何よりも安全面だ。最近はネットの動画や書籍だけで特殊伐採の技術を勉強して、道具は通信販売で取り寄せ、いきなり実践に挑む人もいるようだ。しかし、それでは表面的な技術を真似る以上にはなりにくい。臨機応変な道具の使い方や樹上で起きる想定外の樹木の動きなどは、経験者から細かく教わり、同時に指導を受けつつ経験を積まないと身につかない。
 

もう一つの肝心なこと
林業の進歩に向け

そして、もう一つ肝心なのは、単に木登りして木を伐る技術を身につけるだけではもったいないということだ。
 
たとえば、その木が邪魔だからと根元から伐るのではなく、危険な大枝だけを落とす剪定を行うことで、大木を生き延びさせる提案をしてもいい。また景観的な眼を鍛えれば、樹形を制御して、庭に似合う樹木に仕立てることもできる。あるいは広葉樹の大木の場合なら、その幹の一部は高く売れる可能性もある。その際に材を何メートルに切り揃えるか考えて作業することも考えられる。
 
樹木の物理的・生理的な知識、さらに木材市場の動向を身につけることで初めて樹木の専門家と誇れるのではないか。実際、特殊伐採を手がける人の中には樹木医の資格を取得する人も増えている。
 
そうなれば、森をデザインし美しい景観に仕立てることも可能だし、処理費ばかりかかるのではなく材の有効利用も行える。さらに木登り技術は、樹木や森林の研究者が樹上に登ることにも応用されている。そのほか木登りを楽しむレジャー・スポーツや、子供たちを対象にした環境教育の一環にも広がっている。
 
これからの林業は、森林と樹木を幅広く扱える専門家の職業に進歩していく必要があるだろう。
 

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。
 

著書

『絶望の林業』


2200円(税別) 2019年8月5日発行・新泉社刊

日本の林業は、根底からおかしいのではないか。長く林業界をウォッチし続けていると、“不都合な真実”に触れることが多くなった。何から何まで補助金漬け、死傷者続出の現場、相次ぐ違法伐採、非科学的な施策……。林業を成長産業にという掛け声ばかりが響くが、それは官製フェイクニュースであり、衰退産業の縮図である。だが目を背けることなく問題点を凝視しなければ、本当の「希望の林業」への道筋も見えないだろう。
 

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