VRで林業災害を疑似体験!? 現場の事故を減らす、注目の安全教育や最新技術で見直しを
2022/04/25
林業における労働災害の撲滅を図るためには、安全対策の確実な実行が必須である。今回は、事故を防ぐ職場環境づくりのための安全装備・装置について、最新動向とともに紹介しよう。
2022年の安全管理
最新動向を紹介!
林業は、事故の発生率が著しく高い産業だ。林野庁が発表した2019年度の「死傷年千人率」は20.8人で、年間で1000人中20.8人が死傷したことが分かっている。現場では、具体的にどのような事故が起こっているのだろう。
全国森林組合連合会(JForest)系統事業部長 菊地英晃さんは、こう解説する。
「特に多いのは、チェンソーの使用にともなう事故です。チェンソーの切断力はとても高く、刃が体に触れただけで重大な怪我につながるケースもあります。2019年8月、チェンソーの使用時は防護ズボンを着用することが義務化され、徐々に事故件数は減っていますが、まだまだ多いといえるでしょう。
また、伐倒作業中の事故も数多く起きています。事故の例として、伐倒した木が思いもよらぬ方向に倒れ、ほかの作業者に激突してしまうケース、かかり木を誤った方法で処理した結果、自分や他者に木が激突してしまうケースがあります」。
菊地さんいわく、こうした事故を減らすうえで大切なのは、安全に関するガイドラインの周知と充実した安全教育。
全国森林組合連合会では、安全教育に特化した機器の開発と普及も行なっており、近年は、バーチャル・リアリティを活用した「林業安全教育360°VR」なる製品も開発した。本製品には、現場での発生頻度が高い「他人伐倒」などのシミュレーション動画が記録されている。ゴーグルを着用するとリアリティある映像が視聴でき、事故が発生するまでの過程を感覚的に理解できる。
安全を守るための製品は各所で開発されており、なかには危険度の大幅な解消が期待できるものも。
最近ではIT技術を活用した製品も登場しており、菊地さんがとくに注目している製品は、「GeoChat(ジオチャット)」(株式会社フォレストシー)、「緊急通報ハンマー」(Ronk株式会社)、「ガイドレーザー」(株式会社藤興業)などだ。
「山のなかには電波が届かない場所が多く、作業中に事故が起きてもすぐに同僚に知らせられない場合があります。連絡が滞った結果、手遅れになるという事態を避けるうえで、GeoChatは大きく役立つでしょう。
緊急通報ハンマーも、事故発生時のスムーズな対処を可能にする製品です。また、ガイドレーザーは、経験の浅い人が安全に伐倒作業をするうえで役立ちます」。
こうした安全対策商品には高額なものも数多くあるが、農林中央金庫をはじめとする金融機関や行政機関が展開している助成金制度を利用することで、安全対策商品を無理なく導入することが可能になる。職場の安全を見直してみては。
林業災害を疑似体験する
林業安全教育360°VR
実際の林業現場で撮影したリアルな映像で、林業災害を疑似体験できる。
VRを活用し、林業災害を疑似体験することで、直感的に分かりやすく伝える林業用安全教育ツール。現在は「他人伐倒」編、「かかり木処理」編、「キックバック」編のコンテンツが用意されており、研修の際に活用する現場が増えている。
▲コンテンツが視聴できるVRゴーグル。レンタル期間:6泊7日。延長可。
レンタル問い合わせ
全国森林組合連合会
系統事業部購買課 石原
TEL:03-6700-4734
メールアドレス:ishihara@zenmori.org
最新技術を活用した
注目の安全対策ITEM
ガイドレーザー(株式会社藤興業)
正しい伐倒方向をレーザーが指し示し、安全かつ確実な伐倒作業に貢献する。また、労働災害・死亡事故の原因となる「かかり木」を防止する。
GeoChat(株式会社フォレストシー)
携帯圏外でも使用できるコミュニケーションツール。専用アプリを介してスマートフォン同士を無線接続するため、SOS信号などを送受信できる。
緊急通報ハンマー(Ronk株式会社)
事故などにより作業員が転倒すると、ヘルメットに装着されたハンマーが感知。同時に、ほかの作業員のヘルメットに装着されたハンマーが作動し、事故を知らせる。
※一部製品は全国森林組合連合会「令和4 年度安全対策商品カタログ」に掲載。
文:緒方佳子