〈インタビュー〉世界中の林業従事者が愛用! アプリ「Timbeter」の軌跡に迫る
2020/06/19
素材検知アプリ「Timbeter」。世界中の林業従事者に愛用されるアプリケーションへと成長した理由はどこにあるのか。同アプリを手がけるTimbeter社の現CEOアナ・グレタ・ツァークナ氏にお話を伺った。
手作業での素材検知から、
林業従事者を解放したい。
──Timbeterの設立のきっかけを教えてください。
Timbeterを立ち上げた2013年の時点では、迅速かつ正確な材積測定ツールが存在しなかったからです。先行するアプリもあったものの、データの客観性や透明性が十分に確保されているとは言えず、林業の世界では、紙ベースのデータを、人の手で集計する昔ながらのやり方が残ったままでした。もしも森林所有者から製材会社まで、誰もが使いやすく、手頃な価格で利用できる高性能な材積測定アプリがあるなら、こうした状況を変えられるのではないか。そう考えたことがTimbeter開発のきっかけです。
──Timbeterの強みはどこにあると思いますか?
誰にでも簡単に使えることです。ユーザーは、Timbeterをインストールしたスマートフォンやタブレットで、はい積みされた素材を撮影するだけで材積や丸太の直径を瞬時に得ることができます。すべての測定値には位置情報が紐づけられるので、木材のトレーサビリティも確保できます。
──測定精度の高さの秘密は?
最先端の人工知能と機械学習を活用して、丸太の直径を正確に測定しているからです。丸太一本につき、2000以上のポイントを検出することで、丸太の輪郭面積を測定。それを対称的な円に変換した上で、平均直径を算出します。機械学習の精度を高めるためのトレーニングに用いた画像は30万枚以上。その結果、歪な形状の丸太が混ざっていたとしても、正確な値を測定できるようになりました。
──2014年のリリース後、ユーザーの反応はいかがでしたか?
正直に言うと、当初は、林業界の保守的な側面に苦戦しました。「技術」といえば、重機のことだと考える林業家も少なくなかった。けれど幸いにも私たちは、新たな技術を積極的に取り入れようとする勇気ある企業と出会えました。彼らからフィードバックをいただくことで、ユーザーが何を求めているのかがよりクリアになった。これを開発に反省していくことで、少しづつユーザーを獲得し、現在の世界展開にまで至ることができたのだと感じています。ユーザーのフィードバックを大切に、より使いやすいアプリとしてアップデートしていく姿勢は、今も変わりません。
林業分野のサステナブルな
成長を後押ししたい
──世界中で2万人以上のユーザーに利用されるTimbeterですが、当初からグローバル展開を予定していたのでしょうか?
エストニアは人口130万人の小さな国なので、どの企業も最初から世界市場を目指しています。もちろん私たちもそうでした。ビジネスの世界には「go big, or go home(やるなら思い切り。さもなくば家に帰れ)」という格言があります。けれど、いきなり無茶をしなくとも「home」から少しづつ大きくなることもできますよね(笑)。少なくとも私たちはそう考え、実践してきました。
その結果、CMPC、International Paper、Stora Enso、Metsä、Siam Forestry、伊藤忠といった大手企業と一緒に仕事ができていることを本当に光栄に思っています。Timbeterによる管理業務の負担軽減は、今後も多くの企業の支えになるはずです。SDGsの実現をめざす企業にも取り入れていただきたいですね。素材生産に関わるデータをデジタル形式で管理するようになれば、政府機関や環境保護団体などへの報告書も簡単に作成できますからね。
アナ・グレタ・ツァークナ氏
──今後の日本での展開は?
昨年から日本市場への進出を積極的に開始し、現在5社の企業様にご利用いただいています。5年後には50社以上での導入を目指したいですね。
デジタルソリューションは、企業のサステナブルな成長の鍵です。実際に、エストニアでは、デジタル社会の恩恵を多くの企業がに享受しています。業務のスピードアップ、従業員の安全性の向上、リソースの節約。Timbeterは日本で林業に携わるすべての人にとって、最高のソリューションになると確信しています。
PROFILE
Timbeter社
CEO アナ・グレタ・ツァークナ氏
DATA
Timbeter
エストニア発の素材検知アプリ。基本操作は、はい積みされた丸太を指標となる検尺とともにスマートフォンで撮影するのみ。画像には場所・日時・樹種・数量はもちろん、木材の品質や欠損木などの情報も入力することができる。
問い合わせ
文:松田敦