木を食べる&木で調理する! 「味覚」から考える木材活用法が続々誕生中
2021/03/22
木材をほかの食物に混ぜて食べることが、昨今注目を集めている。人体が分解できない仕組みを応用し、ダイエット食品とする試みだ。パウダー化して小麦粉や茶葉に混ぜだり、薄く剥いだかんなくずから出汁を取るなど、調理法は続々と誕生している。
新たな活用法!?
「味覚」から考える木材
木材の特徴とは何だろうか。一般的には建築材や家具材などによく使われているが、住宅でも家具でも、木材以外の素材でもつくられる。コンクリートや金属、合成樹脂でも製造は可能なのである。
しかし、やはり木造住宅や木の家具は好まれる。木材にはほかの素材にない魅力があるからだろう。たとえば木目を見る視覚、木が放つ香りを感じる嗅覚。肌で暖かさや手触りの良さを味わう触覚。こうした五感を刺激する木材に快適さを感じるのだ。そこで今回は、新たな刺激、味覚について考えてみたい。
まず直接食べることを考えよう。木材の成分は、主にセルロース、ヘミセルロースとリグニンである。いずれも、これらは人間には消化できない物質だ。草食動物やシロアリのように体内で分解できる酵素を持っていないからだ。体内に入れても、時間とともに排出されるだけ。その代わりヤニなど特殊な分泌物を含む部分でなければ、身体に害をもたらす心配もないだろう。
最近になって注目を集めているのは、木材をほかの食物に混ぜて食べることだ。そして人体が分解できないことを利用しようというのである。なぜなら、消化できないのだからイコール栄養にならない、それはダイエット食品につながる、という発想からだ。
つまり木材(主にセルロース)を食物繊維として扱うわけだ。食物繊維は胃や腸のなかで水分をたくさん吸収し、大腸を刺激するから便通がよくなるとされるほか、腸内の有害物質を吸着させ排出する機能もある。栄養はなくても身体によい面もあるのだ。しかも腹持ちはよいから、満腹感も味わえる。
食物に混ぜて食べる「木材」
活用法は続々と誕生中
志村史夫・静岡理工科大学名誉教授は、スギやヒノキをパウダー化して、食品に混ぜることを提案している。木材を直径0.3ミリくらいの粉(スーパーウッドパウダー)にして、小麦粉などと混ぜてパンやケーキ、ビスケット、ハンバーグ、ソーセージにしてみたら、まったく味は変わらない食品になった。全体の2割ぐらいの量までなら違和感がないという。それでいてカロリーを減らせるからダイエット効果が見込まれるわけである。
一方で静岡県川根本町では、スギのスーパーウッドパウダーを茶葉と混ぜた「おがっティー」を開発販売している。こちらは日本茶に木の香りを移して楽しむという趣向だ。このお茶は、花粉症の症状を抑えるのに効くという声もある。
そのほか、木材を薄く剥いだかんなくずからカツオ節のように出汁を取る試みをした料理人もいる。こちらもカロリーや栄養価を求めるのではなく、香りを楽しむ食べ方と言えるだろう。
このように木を食べ物とする発想は、食べて楽しむだけでなく、木と親しむという面からも新たな挑戦になる。木育になるかもしれない。
ただ消費される木材の量としては、イマイチかもしれない。また木材部分が目に見えない状態になってしまうのも惜しい。そこで、次回はもっと野趣に富む木材を使った調理法を紹介したい。それは「ウッドプランク・グリル」である。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。