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森林がプラスチックの畑に……?!《石油依存からの脱却》鍵は木由来の成分”リグニン”

枯渇原料でもあり脱炭素に向けて代替原料が求められている「石油」。代替原料として木材から取れる成分、リグニンが有力視されている。リグニンとは何なのか? バイオプラスチックとは?をわかりやすく解説していく。

石油に代わる原料に?
森からプラスチックを生む技術



古代の生物が分解されないままに、地中奥深くの圧力と地熱で長い時間をかけてできた有機物であると言われている石油。石油は発電のためのエネルギーやプラスチックの原料として、私たちの日常に欠かせない資源だ。

しかし、経済産業省によると石油を採掘できるのはあと50年程とされている(参照:経済産業省)。石油には将来の枯渇の危機があるだけではない。石油産出国の情勢は、現在の政治や私たちの身の回りの工業製品の物価にも影響を与えている。

石油を取り巻く問題の解決策の一つとして、バイオプラスチックが注目されている。バイオプラスチックは原料が生物由来の成分であり、石油を原料としない。

バイオプラスチックとは?

バイオプラスチックの原料には、植物の繊維質であるセルロースや植物油、穀物のデンプン、デンプンを発酵させて得られる糖分などが利用されている。バイオプラスチックの中には時間をかけて微生物に分解される生分解性という特徴をもつものもあり、原料から使用後の処理まで環境に優しいプラスチックが追及されている。

そのようなバイオプラスチックの原料として、リグニンと呼ばれる物質に注目した研究がある。この研究が実を結んだとき、森がプラスチックの畑になるかもしれない。



木材の使えない成分”リグニン”
最新技術により夢の素材へ

リグニンとは樹木を構成する成分のひとつである。樹木の約20~35%をリグニンが占めており、生物由来の物質として地球上で2番目に多いと言われている。リグニンはレゴブロックのように複雑に重なり合って樹木の細胞の隙間を固めて支えている。

パルプ産業では木材から洋紙を製造する工程の中で、木材の茶色い成分を取り除くことで紙の白さを生み出している。このときに除去される茶色い成分がリグニンだ。現状、取り除かれたリグニンは燃焼してタービンを回すことで発電に用いられている。

これまでに、利用率が24%ほどに留まっている間伐材などの林地残渣の利用促進に向けて、間伐材からこのリグニンを取ることで付加価値がつくような有効活用法が模索されてきた。

そしてついに、最近になってリグニンをプラスチック原料に変換する技術が開発された。利用が実現すれば、森林が国土の約7割を占める森林大国“日本”にとって画期的な技術となるだろう。そんな夢の技術を3つ紹介する。

リグニン活用①
強くて自然に優しいプラスチックに

ひとつめは、あらかじめ分解したリグニンをPDC(2-ピロン-4,6-ジカルボン酸)という物質に変換する手法だ。PDCは様々な工業製品の原料として利用できるのだ。PDCを原料にしたプラスチックは熱に強く、耐久性にも優れており、自然由来の高機能性プラスチックとして期待されている。

森林総合研究所よるこの手法では、樹木の中でレゴブロックのように積み重なったリグニンをばらばらに分解して、1パーツになったリグニン分解物を餌としてバクテリアに食べさせる。すると、この特殊なバクテリアはリグニン分解物を代謝してPDCを生産する。(参照:森林総合研究所)。つまり、リグニンからプラスチック原料に微生物発酵させているのだ

さらに、PDCにはプラスチック以外の用途もある。例えば2枚の鉄板の端をくっつける接着剤の材料にPDCを用いると、鉄板のつなぎ目に人が乗ってもびくともしない強力な接着力を発揮する。その接着力は一般のエポキシ樹脂の接着剤の3倍にも上るという。

また、PDCは放射性セシウムに結合して沈殿する機能をもっていることも明らかになっている。放射性セシウムは東日本大震災の影響で原子力発電所から流出して問題となった。放射性セシウム流出の有効な対策として研究が進められている。

 

リグニン活用②
石油の代わりとなるマルチな物質に

次に紹介するのは上記と同じ方法だが、使うバクテリアの個体と生産される物質が異なる。

弘前大学と長岡技術大学の共同研究によるこの方法では、ムコン酸(cis,cis –ムコン酸)と呼ばれる物質が得られる。ムコン酸もプラスチックの原料になることが分かっており、より正確に言うと、プラスチックの原料の原料である。

ムコン酸をアジピン酸という物質に変換すればナイロンになり、テレフタル酸に変換すればペットボトルになる。この他にもムコン酸は様々な樹脂や医薬品の原料となり、様々な有用物質に化けるマルチな物質だ。

 

リグニン活用③
窓や水槽にも使える丈夫な樹脂に

これまでに紹介した2つの技術はリグニンの分解物を微生物によってプラスチックの原料に変換していた。最後に紹介するのは、リグニンの分解物を直接プラスチックに変換する手法だ。

それは理化学研究所から発表された、「リグニン分解物からアクリル樹脂を合成する」技術だ。アクリル樹脂はプラスチックの一種であり、ガラスを超える透明度の高さと衝撃に対する強さが特徴とされている。その性質から水族館の巨大水槽の素材にも使われる。

前例の少ないリグニン由来の成分のプラスチック化に成功し、またそのプラスチック化された合成物が従来のアクリル樹脂とは異なる化学構造をもつことから、新たな特性の発見も期待されている。いずれの技術も現時点では研究・実証段階であり、実用化に向けた開発が進められている。

 



これらの技術が実現した社会では、ペットボトルや食品容器、服に家の窓まで、身の回りのあらゆるモノが樹木由来になるかもしれない。地元のスギ、自分と同じ年齢のヒノキといった思い入れのある樹木からつくった日用品にきっと愛着が湧くだろう。

さらに、他のバイオプラスチック原料であるデンプンや植物油と違い、リグニンには“食品”という用途がない。これはリグニンが食品業界に流れることなく、工業用として安定供給できる可能性を示している。

このようにリグニンは素材として高いポテンシャルを秘めている。リグニンの有効利用で石油依存を脱却し、環境にも優しいモノづくりに繋げられるかもしれない。




文/天野桂

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