世界が注目!? 小笠原の厄介者アカギが高品質リコーダーに。離島経済へ貢献の可能性
2022/05/18
日本の林業界と楽器業界が抱える様々な課題にブレークスルーを起こしたSAKUWOODブランドの楽器の数々。その中のひとつであるリコーダーは厄介者とされてきた「小笠原アカギ」でつくられたという。
厄介者の外来樹種が
日本の意匠により楽器へ昇華
2022年2月、小笠原アカギを利用した合奏用リコーダーとして、ソプラノ・アルト・テナー・バスの4種が完成した。
世界自然遺産・小笠原のトレーサビリティが付いたアカギリコーダーは、すでにイタリアのオーケストラなどで活躍する一流音楽家たちから、音楽が生態系維持に貢献することへの感動の声と、是非演奏してみたいと問い合わせが寄せられているほどに、世界から注目を集めている。
アカギは、小笠原では固有種を駆逐する厄介者として長年忌避、駆除されてきた外来樹種である。その木質の特性から反りや捻れが生じやすいため、木管楽器製造は困難とされていた。
しかし、京都大学森林科学学科・高部(たかべ)圭司名誉教授らによる木質形成と動的振動調査により、「楽器用木材(トーンウッド)として、アカギは比重・動的振動がワシントン条約規制樹種のローズウッドより軽く、マホガニーに近い独特の性質」という評価が下され、アカギの楽器製作の道が切り拓かれた。
その後、創造再生研究所・小見山氏のプロデュースにより、SAKUWOODブランドの小笠原アカギ製のウクレレとクラシックギターが完成したことで、アカギが「楽器に適した音響特性を持つ優れたトーンウッド」であるとして実演実証された。
今世紀最大のイノベーション!?
世界が注目するリコーダーへ
これまで楽器といえば、ローズウッドやマホガニーといった決まった樹種を使用するのが楽器業界の伝統とされてきた。また、森林研究を行う多くの学識者たちからも、アカギは「役に立たない」「外来種で駆除すべき対象」と言われてきた樹種である。
今回、そんな厄介者のアカギをリコーダーに昇華させることに賛同したのが、自身もクラシック楽器奏者であるZEN-ONの河村秀教氏である。
彼は完成したアカギリコーダーを吹いた時、これまで自分が「楽器製造にイノベーションはあり得ない、アカギはワシントン条約で輸入規制されたローズウッドやマホガニーのただの代替木材」と捉えていた固定概念が覆されたと話す。
「初めて音色を聴いた時、心底、体が震えました。リコーダーというのは、音響工学の粋が詰まった楽器です。私がこれまで聴いたどのリコーダーにもない甘やかな深い調べに衝撃を受けました」。
そして同氏は、木管楽器製造が森林生態系保持に繋がることの意義を再認識したと語った。
アカギリコーダーを製造したのは、大阪にある日本屈指の木製リコーダー専門製作所・竹山木管楽器制作所である。
木製リコーダーは、木工技術が集約された製造が非常に難しい楽器。同社は独自研究で開発した木製リコーダーの製作専用の機械を持ち、世界30ヶ国以上で愛されているプロ仕様のリコーダー「竹山リコーダー」を製造する。
また、独自の低温乾燥ルームを設置し、ホンジュラスローズウッドやトルコツゲ等、世界の希少材を保有するほか、日本の木材においては、これまで山口県周防大島産ミカンの木やJA鳥取いなば郡家支店 梨担当官のコーディネートでの梨の木、北海道被災地及び秋田のイタヤカエデを材としたリコーダー製造などを通じて地域活性化に多大なる貢献をしてきた。
竹山氏は、アカギリコーダー製造の感想をひと言、「楽しかった」と語る。アカギならではのオリジナルトーンを感じ、非常に面白い作業だったという。
小笠原木材のブランディング
離島経済への貢献の可能性
そもそもアカギは、戦前、小笠原に砂糖製造のための燃料となる薪炭用の樹種として導入された外来植物である。それが今では固有種を絶滅させる厄介者扱いだ。
そんな矛盾を抱えた小笠原で、生態系保全のための公共事業を通年請け負っているのが小笠原グリーン株式会社である。次のように話してくれたのは同社の横山浩一氏、アカギリコーダー誕生の立役者の一人だ。
「小笠原には戦後から現在まで林業は存在しません。森林経営ではなく保全が目的で、外来樹木駆除と小笠原固有種・在来種による森林再生の2つをセットで事業を進めていきたいと考えています」。
亜熱帯気候の小笠原ではアカギを含む樹木の成長速度が著しく速く、公園など公共空間や山中の遊歩道沿い、自動車道路沿いの剪定や危険木の伐採など、生活と観光インフラの維持管理で年間300〜400tの木材資源が発生する。
「公共事業から排出された木材資源は、すべて産業廃棄物扱いになります。島外に搬出するにはコストが高額のため、現地残置、チップ化、堆肥化して島内リサイクルという名目で低コスト化が図られています」。
ところが、残置によるシロアリ発生と、堆肥化されても多くが未利用という状況で、それ以外の木材利用スキームがないことが地元の大きな課題となっていた。
PROFILE
楽器職人
竹山木管楽器製作所
竹山宏之さん
アカギリコーダーの製造を担う。
小笠原の生態系保全
小笠原グリーン株式会社
横山浩一さん
外来樹木アカギの伐採・駆除、小笠原固有種と在来種の森林再生と環境保全活動を行う。
プロデューサー
一般社団法人創造再生研究所/
SAKUWOOD 代表
小見山將昭さん
音楽プロデューサーとして活動した経験から、楽器に使用されている木材に着目。
楽器メーカー
ZEN-ON(株式会社全音楽譜出版社)
楽器事業部
河村秀教さん
小見山氏の取り組みに賛同、アカギを使用したコンソートシリーズのリコーダー制作を開始。