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「低コスト造林」一辺倒でいいのか? 良い山づくりに必要なものとは

伐採跡地では再造林が行われるのだが、最近は苗木の植栽本数は少なめにするという低コスト造林の手法が採用されるケースが多い。しかし、植栽本数を減らせば間伐作業の選択肢が減り、木の質が落ち単価が下がる。それは本当に低コスト造林と言えるのか。山づくりの考え方を今一度見直してみよう。赤堀楠雄連載コラム「令和の林業最前線」。

いま伐っている木と同じ木は育てられない

先日、知人から聞いた西日本のある林業地の話。彼はそこの町役場で林業振興を担当しているのだが、他の産地と同様に最近は生産量が増えていて、伐採業者も潤っている。生産方式は皆伐が多く、当然、伐採跡地では再造林が行われる。ただ、苗木の植栽本数は2,000本/haと少な目で、いわゆる低コスト造林の手法が採用されるケースが多いというのである。

 

皆伐後に低コスト造林の手法が採用されるケースが増えている。

 

「ただ」というのは、この林業地は優良材の産地として知られ、植栽本数は6,000本/haという密植仕立てによる山づくりが当然のこととして行われてきた。それが3分の1の2,000本/haにまで減らすというのは、この地域を知る感覚からすれば超疎植だと言わなければならない。「それでこれまでと同じ木が育てられるのか?」と尋ねると、知人は言下に「無理だろうね」と否定するのである。

コストダウンが目的ではいけない

コストダウンや効率化は、どんな産業でも求められる。しかし、コストを下げ、作業を効率化するというのは手段の話であって、目的ではない。林業なら「どんな山をつくるか」が目的になるべきであり、そのための手段として、植栽本数や育て方を考えることになる。まず目的があり、手段を考える。そういう順序での思考が求められる。

「でも、いまどき、『良い山』や『良い木』なんて求められていないのだから」という反論もあるだろう。日本の林業は木を植えて育てる造林作業に多大なコストがかかり、それが林業の収支を厳しくさせている実態もある。ならば、山や木の質は二の次にしてでも、まずはコストを下げることを目指すべきだ――というのが「低コスト造林」の理屈である。件の林業地なら、以前のやり方で育ててきた優良材は、もはやニーズがない、だから疎植にしてコストダウンを図るのだという説明になるのだろう。

しかし、それはコストダウンではなく、山づくりの方針を「変更」したのだと言わなければならない。物づくりのコストを下げるというのは、品質が同じ物をつくることが前提で、だからこそコストダウンの効果が際立つわけだ。

 

丁寧に育てらてた人工林。良い山づくりとコストダウンを両立させたい。

 

例えば、熟練のシェフが経営するレストランが経営改善のために調理作業の一部を機械化してコストダウンを図ったとして、できあがった料理が同じ味なら、それまでと同じ値段で提供することができるから、採算も良くなる。ところが、機械化したことで味が落ちてしまったなら、それでも客足を引き留めるために値段を下げなければならないかもしれない。コストは下がったが、単価も下がるのでは、経営に何らプラスにならない。

植栽本数を減らせば、その後、木を育てる中で、形質の悪い木を間引く間伐作業の選択肢が減る。50年生に育った時の密度を1,000本/ha程度と想定すれば、植栽本数2,000本/haでは、50年間で1,000本しか間引けないことになる。それでも、残る1,000本が形質の良い木に育つように工夫する。その工夫まで考えられていてこそ、初めて「低コスト造林」と言えるのではないか。

山づくりを楽しくしたい

国の林業政策が皆伐再造林を進める方針に切り替わり、全国各地で皆伐の現場が増えている。そもそも、40年や50年で皆伐しなければならないと決まっているわけでもないのに、右へ倣えで皆伐が指向されていることにも違和感を禁じ得ないが、皆伐した後の山づくりも、とにかく目先のコストを下げることばかりに躍起となっているケースが多いようで、こんなことでいいのだろうかと心配になる。

自然は多様であり、林業も現場ごとの答えがあっていい。だから、もちろん、「低コスト造林」も選択肢に入るのだろうが、少なくとも、どんな山をつくり、どんな木を育てるのかの方針は決めておくべきではないか。50年後、100年後の山の姿を思い描いて、山仕事にいそしむ。その方がずっと楽しいと思うのだが、どうだろうか。

将来の山の姿を楽しみに山仕事にいそしみたい。

PROFILE

林業ライター

赤堀楠雄


1963年生まれ、東京都出身。大学卒業後、10年余にわたる林業・木材業界新聞社勤務を経て99年よりフリーライターとしての活動を開始。現在は林業・ 木材分野の専門ライターとして全国の森や林業地に足を運ぶ。

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