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森林は温暖化を防止するための道具ではない 大増伐へと歩み出しかねない現状に警鐘

スギやヒノキ、カラマツの人工林に関して、皆伐を行い、再造林を進めようという掛け声が主に行政サイドからなされている。だが、それは本当に必要なことなのか? 林材ライターの赤堀楠雄氏は、大増伐へと歩み出しかねない現状に警鐘を鳴らす。

40~60年生は
「高齢林」ではない

現在の人工林の状態について、40~60年生くらいの木が多くなっていることを「本格的な伐期が訪れている」とする向きがあるが、この「伐期」という表現は適切ではない。スギもヒノキもカラマツも100年を優に超えて生き続ける生物なのである。
 
それを40年生やら50年生やらが伐り時であり、皆伐の時機だと決めつけることなどできるわけがない。ただ、利用できる大きさに育ってきていることは事実なので、ここは「本格的な利用期が到来した」と表現すべきなのである。
 
皆伐再造林を進める理由として、人工林の「少子高齢化」状態を改善し、林齢構成を平準化するためだという説明もよく聞かれる。だが、これにも違和感がある。最近20~30年ほどは造林があまり行われていないので、確かに若齢林は少ない。
 
しかし、上に書いたように木はとても長く生き続けるわけだから、40~60年生程度を「高樹齢」とは言えない。林齢平準化を志向するなら、せめて100年生くらいを筆頭とした状態を想定して、方法論を議論すべきだろう。


40~60年生程度は「伐期」ではない



森林は温暖化防止の
ツールではない

樹齢が高くなると成長力が鈍る、つまり、光合成で二酸化炭素を固定する(木が大きくなる)能力が衰えるから、高齢の木は伐採し、二酸化炭素の吸収固定能力が旺盛な若い木に植え替えるべきだとも言われる。
 
しかし、70年、80年という樹齢になっても木が大きく太り続けることは、いくつもの研究成果で明らかになっていて、40~60年生くらいを成長(二酸化炭素吸収固定)のピークだとするのは適切ではない。
 
森林には二酸化炭素を吸収固定する機能があり、それが温暖化防止の観点からも重要だということはわかる。しかし、森林の機能はそれだけではない。水源の涵養、防災、木材生産等々と、森林はさまざまな役割を果たしてくれている。


広葉樹の森を行く。森林がもたらしてくれる安らぎを大切にしたい

大きく立派な木の姿はわれわれの心に何とも言えない安らぎを覚えさせ、100年を優に超え、数百年あるいはそれ以上も生き続けるその姿に対峙していると、その神々しいまでの生命力に対して、こうべを垂れたくなるような念が沸き起こってくる。
 
そのような心持ちをわれわれにもたらしてくれることも木の大切な機能だとするなら、高齢になると二酸化炭素の吸収能力が衰えるからなどという理屈を唱えることが、いかに矮小な議論であることか。森林は温暖化を防止するための道具ではないのである。



過去の轍を踏まないように

現政権の菅義偉首相は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を示した。それはぜひにも実現してほしいことではあるが、そのために森林の二酸化炭素吸収能力に過度の期待をかけ、人工林を若返らせるべきだなとという話にならないように、林業関係者こそが気を確かに持っておかなければならない。
 
広葉樹よりも針葉樹の方が成長が早いからなどという理由で拡大造林を推進し、成長量を上回る過度の伐採を重ねて資源を細らせ、日本の森を作り変えてしまった過去の轍を踏まないようにしなければならないのである。


樹齢数100年のカツラの大木。森林の二酸化炭素吸収能力だけを云々することの矮小さに思いを至らせたい

 

PROFILE

林材ライター

赤堀楠雄


1963年生まれ、東京都出身。大学卒業後、10年余にわたる林業・木材業界新聞社勤務を経て99年よりフリーライターとしての活動を開始。現在は林業・ 木材分野の専門ライターとして全国の森や林業地に足を運ぶ。

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