研究者の心を奪った四足歩行ロボット「Spot」とは?〈前編〉日本林業の救世主になるか
2023/02/06
人手不足や高齢化、業務効率化などの問題を抱える林業。厳しい勾配の山林に入るのは、ロボットにまかせてみるのはどうか。アメリカ発の電動四足歩行ロボットが日本を、そして地球を救う?! 検証中の活用場面とは?
メイン画像:国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
(左)研究ディレクター 宇都木玄氏、(右)省力化技術研究室長 山口浩和氏
厳しい環境下でも動けるか。
調査・検討、その驚きの結果
「ITの力で林業が抱える課題を解決できないか? そう考えるなか、偶然出合い、コレ欲しい! そう思ったのがきっかけです」と話すのは、森林総合研究所の宇都木氏だ。
彼の心を奪ったのが、米国ボストンダイナミクス社開発の電動四足歩行ロボット「Spot(スポット)」。
同研究所は、昨年度にSpotの歩行実験を、今年6月から「林業で担える作業を検証する実証実験」を行った。
主に、①造林地を歩けるか? ②林内での通信環境は? ③どんなことに使えるか? の3つ。
「結論から言えば、可能性は十分あります。北海道下川町などにある造林地や急傾斜地などの過酷な環境下で歩行能力の調査・検討を行ったところ、一定の条件下であれば斜面や障害物などがあっても安定した歩行ができることがわかりました」(山口氏)。
林業作業には、地ごしらえや植林、下刈り、枝打ち、間伐、主伐といった工程があるが、Spotはどのような場面で活躍するのだろうか?
「機械化、IT化が進み、造林が素材生産のスピードに追いついていません。現在も造林~保育作業は人力が中心の作業になります。こうした問題の解消のため、研究所では何年も前から地ごしらえ研究や、成長が早く収穫時間を大幅に短縮することができるエリートツリーなどの新しい品種や早生樹の研究も行ってきました。
森林造成を行う際の準備作業となる地ごしらえを徹底して行い、成長に優れた苗木等を植栽することで、下刈り作業の回数を1回、できれば0回にしたいとも考えています。これまで人力に頼っていた造林作業、特に急斜面での危険な植林や夏場の過酷な下刈り作業でSpot君が活躍するかもしれません」(宇都木氏)。
林業が抱える問題は、林業従事者の高齢化と慢性的な人材不足に加え、流通するまで長く複雑な経路を要し、人力作業が多いことで、省力化と労働災害の削減が大きな課題になっている。
「日本の山の45%は30度以上の斜面です。林業の事故率は、全産業平均の約10倍※。これはなんとかしないと」(山口氏)。
※出典:林野庁 林業労働災害の現況「2. 林業労働災害の発生率」
話してくれた人
国立研究開発法人森林研究・整備機構
森林総合研究所
(左)研究ディレクター
宇都木玄氏
(右)省力化技術研究室長
山口浩和氏
実施概要
森林総合研究所とソフトバンクが国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託した「農山村の森林整備に対応した脱炭素型電動ロボットの研究開発(NEDO先導研究プログラム)」において実施。
<目的>
電動ロボット活用によるスマート林業とゼロエミッションの実現
<実証実験内容>
(2021年度)
・北海道下川町などにある造林地や急傾斜地などの過酷な環境下で電動四足歩行ロボットの歩行能力についての調査・検討
(2022年度)
・電動四足歩行ロボットによる造林地の巡回や監視、荷物の運搬などの作業可否を検証する試験・造林地で設定したルートを自動で歩行する機能の検証
・複数台のロボットで協調作業を行うためのシステムの開発
・携帯電話の電波が届かない場所でもロボットを運用するために、造林地でロボットが自動で歩行するための通信環境の構築および検証
文:脇谷美佳子
写真:松尾夏樹