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人材が定着する組織づくりは、習慣やルールの見直しから! 林業の安全管理と人材育成のポイント

人材育成と安全対策の推進は、林業経営者の共通課題だ。「FORESTRISE 2024」で開かれたセミナーでは、一般社団法人林業技能教育研究所の飛田京子所長がそうした問題の背景について、林業従事者の心理的特性と指導方法の両面から分析し、改善に向けた道筋を提案した。

メイン画像:さまざまな危険を内包している施業現場

<目次>
1.現場不在の決まりづくり
2.林業で働くひとの特性
3.“違い”をプラスに
4.“当たり前”の棚卸をしよう
5.林業の人材育成とコミュニケーション手法
6.指導者育成に有効なコーチング手法

 

現場不在の決まりづくり

飛田氏は林業の労災防止や人材育成に関わった10年以上の経験を踏まえて、林業現場での安全対策の進め方について「現場不在の決まり作りになっており、今のやり方でいいのか疑問だ」と問題提起した。その上で「人には個性や心があるということが、仕組みづくりや運用の前提にないことが違和感の背景と感じている。これを踏まえないと安全対策も人材育成も進まない」とひとりひとりのパーソナリティを踏まえる大切さを強調した。

そのためのポイントに挙げたのが、
①林業で働くひとの特性理解
②人材育成とコミュニケーション
③指導者育成(コーチング)

の3点
だ。

働く人の個性や特性に対する理解が求められている林業現場の人材育成

 

林業で働くひとの特性

飛田氏は林業現場で働く人の特性について「機械操作などモノを扱う部分への興味は強いものの、他者とのかかわりについての関心が弱い傾向にある」と述べた。

大きな変化を好まなかったり、見るものや知覚に入るもの、興味関心を選んだりしているケースが多いとして「例えば同じ木を見ても研究者や行政、現場の技能者など、立場によって見ているものや見え方が違い、コミュニケーションの齟齬につながることもある。

こうした特性を知らないと安全対策はうまくいかない。周りのひとへの関心が弱いことは安全性や生産性にもマイナスの影響があるのではないかとの仮説を立てている」と指摘した。

さらに林業事業体での人材確保の傾向として「(個々のスタッフの)得意不得意の特性を加味せず、不足している部分に人材を突っ込んでいる印象を受ける。安全の面でも生産性の面でもこうした現状を踏まえて対策を立ててほしい」と呼び掛けた。

若手林業技能者の関心も高い高性能林業機械

 

“違い”をプラスに

一方で飛田氏が強調したのが、そうした個々のパーソナリティの違いが生み出す可能性のあるプラス効果だ。

「相手は関心がないことを見ていないことはあるが、だからといって関心が低いからできないわけではない。また関心分野が自分と同じだと見落としてしまうものもある。相手を自分が見落としている苦手なものをカバーしてくれている存在ととらえることで、相手への見方を変えることができる」と発想の転換を促した。

その上で「林業経営者は(他者とのかかわりについての興味関心が薄い)現場タイプのひともいるのでは」と述べ、「こうしたことも安全対策や労災防止のために手を打つべき課題になるかもしれない」と組織トップ自らの自己分析も求めた。
 



 

“当たり前”の棚卸をしよう

林業を含めた各産業での労働力不足が深刻化する中で、人材の確保と定着を図るための手立てはあるのか?

これについて飛田氏は「組織や社会のあり方に、人(労働者)が寄っていくことが当たり前だったのがこれまでの時代。しかし今は一人一人の個性を生かさないと業界が回らない時代になった」と社会や時代の変化を強調した。

例えば始業時刻の一時間前に出社して、仕事の段取りを整えることが習慣化している会社に入った新人が戸惑うケースもあるとして「自分たちの当たり前が相手の当たり前でないかもしれない。また当たり前にしていることほど確認作業を怠ってしまうこともある。まずは習慣やルールの棚卸と可視化をした上で、安全管理と人材育成をしてみてください」と呼び掛けた。

人材の確保と定着を図るために「習慣やルールの棚卸」も意識したい

 

林業の人材育成と
コミュニケーション手法

「親方の背中を見て学ぶ」。林業を含めたこれまでの職人仕事で一般的だったのがこうした仕事の覚え方だ。

飛田さんは、こうした旧来型の指導法について「非言語的コミュニケーションで、察することを望む傾向にある。そのため技能を身に付けるためには自発的な学習が必要。また仕事を覚える側が指導者と興味の特性が似通っていたり、見せたいものの要点をつかむセンスが必要だったりする」と解説した。

こうした指導法を単純に良い悪いとは判断できないとした上で「際立った才能を学ぶためには良いが、現在の産業としての林業の人材育成にはちょっと向いていないのではないか」と述べた。

その例として挙げたのが労働安全衛生法令では認められていないものの、多くの林業技能者が身に付けている掛かり木処理技術の「元玉伐り」だ。
飛田さんは全国からアンケート調査で集めた265事例の分析結果を示し「伐り方は受け口の在り無しなどで30種類あり、呼び方は32種類あった」と紹介した。その上で「これは地域やそこで働く人によって呼び方の整合性が取れていないことの現れ。

つまり公の場で教育されないアングラな方法として、村の伝承を唄で伝えるような不確かな部分がある非常にリスクのある伝達法といえる。受け止める個人の感性に頼ってしまうという点であまり良くないコミュニケーション手法ではないか」と指摘した。

実践的な技術指導が体系的に行われていないと指摘されている掛かり木処理

 

指導者育成に
有効なコーチング手法

そうしたさまざまな課題がある中、人材育成を進める上で重要性を強調したのが指導者によるコーチング能力の向上だ。

飛田さんはコーチングのポイントについて「相手の特徴をよく観察し、潜在能力に働き掛け、最大限に力を発揮させること。そして足りないところを補うこと。さらにそうしたことを言語的に伝える力が必要になる」と説明。その上で指導者には「相手への観察力」「言語的コミュニケーション能力」の2つが求められるとした。

林業に関心を持つ層が多様化する中、指導者に求められているコーチング能力

そのために欠かせないのが指導者自身の自己理解だとして「異業種経験者や中高年など林業への新規就業者が多様化する中、相手を観察する力を得るには、まずは自分の中の整理が必要。自分を良く知り、理解すること。自己理解で当たり前や思い込みを知ることで、相手との違いを知り、相手との関わり方を考えるようになる。そして自分の興味関心が分かると相手のことを知る切り口ができる。指導をする中で、ときには相手から自分と同じような熱意が返ってこないとストレスや葛藤が生まれるかもしれない。しかし相手の興味関心やキャリアを踏まえて自分との違いを考えることが大切で、そのためには指導者自身の準備が必要になる」と強調した。

こうしたポイントを踏まえた上で、業界全体で人材を育てるための取り組みとして「今の安全対策や人材育成で当たり前と思っている習慣やルールはないか。まずは初心に戻って“当たり前”の棚卸を行い、見落としているものを見つけるところから始めてみてほしい」とあらためて呼び掛けた。
 



 

お話を聞いた人

一般社団法人林業技能教育研究所

飛田京子 所長


取材・文:渕上健太 撮影:渕上健太、土屋敏男
撮影協力:有限会社天女山

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